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きっかけは映画館
第12章 商談
今一度顔を上げれば、爽やかな表情にパリッとスーツを着こなして…
映画館の暗がりに乗じて、あんな事をする男には見えない。
そして、こちらが切り出すのを待つように、膝に肘をつき、手を組んでいるが、
ヒジオのその男らしい大きな手、長い指が私の太ももと右手を這い回っていた感触を思い出してしまった。
「それで?」
数秒も惜しいと言わんばかりの立花女史に切り出されてもすぐに言葉が出なかった。
『社内恋愛も…』
なんたらかんたらとヒジオが言っていたのを思い出す。
こんな美女たちと一夜限りの関係を結んで、それは結婚には結びつかない間柄だったということだろうか。
「先輩…」
優希ちゃんに小突かれて、ハッとする。
「あ、すみません。今回、オータムフェアといたしまして8〜10月四半期の催事場での企画を検討しておりまして、ヨーロッパのスイーツを取り扱いたいとテーマを決めたところですが…
具体的な方向性が…」
「スイーツってひと括りにすれば女性のハートが掴めると、安易に思われるかもしれませんが、スイーツといっても、焼菓子、生菓子、チョコレート、箱もの、缶もの、袋ものとジャンルは沢山ありますわ。
価格帯も幅が広いですし、もっと焦点を定めていただかないと、こちらもご期待に沿え兼ねます。」
出来る女は容赦なく一刀両断する。
「あの、力不足で中途半端だってことは重々承知しております。
イメージはあるんですが、海外旅行で現地でしか触れられないようなものを、デパートで見て手に取ることができ、味わうことで現地に行った気分まで味わえるというようなフェアにしたいんです。」
突然、優希ちゃんが話し出す。
「じゃあ、既存のメーカーのものは除外するってことになるわね。
尚更難しい注文ですわ。」
まさに玉砕、といった感じで応接室が静まり返る。