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きっかけは映画館
第13章 金曜日
同じように、長ったらしくわかりやすい名前の店にいき、
リベンジだったのかヒジオはまた、予約していて個室に通される。
お酒に酔ったように力の抜けた私は、ヒジオと並んで堀炬燵に座った。
「麻里絵ちゃん…今日は俺にお任せでいい?」
「うん、ソーシャルアドバイザーのヒジオに任せる。」
まだ何が悲しいのか、裕司とのことだけど、それの何がなのかはわからないまま、ただ無性に悲しい私はメソメソと泣いていて、
しゃくりあげる私の肩を、ヒジオは優しく撫でてくれていた。
身体は現金で、その感触を心地好いとしっかり認識していた。
「何で泣いてるのかわからないのに…
しっかりイヤミは言うんだね。」
ヒジオは私を覗き込むようにして言うけれど、その表情は戸惑っていた。
「何かね、何だかわからないけど、悲しいの…」
言葉にしてしまえば余計に悲しくなって、涙が次々溢れてくる。
裕司と別れた時ですら泣かなかったのに、何でこんなに悲しいんだろう。
ヒジオは前回頼まなかった料理を注文し、ずっと肩を抱いたまま飲んで食べている。
「食べなきゃだめだよ。」
ヒジオに促されて全て涙味の料理を何とか取り込んだ。
「はぁあ〜、今週は何だか色々あってびっくりだよ。」
商談のことを言っているのだろうけど、泣き止まない私に、ヒジオはそれだけポツリと言って、後はずっと背中を撫でてくれていた。