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きっかけは映画館
第14章 謎のツケ
何でこうなっているのかわからないけど、私がヒジオを誘ったんだ。
とりあえず、ヒジオの言う通りにヒジオの隣に横になって、ヒジオの腕枕に戻って、ヒジオに背を向けて…
するとヒジオは布団を掛けてくれて、そのまま腰辺りに腕が置かれて、でもゆったりと包むように、手は私に触れないようにしていた。
「ごめんなさい。」
とりあえず私は謝る。
「何が?」
「わからないけど…たぶん色々…」
「やっぱ、覚えてないんだ。」
背を向けていて、声だけなんだけど、ヒジオがシュンとしているのがわかる。
「私達…何か…したの?」
「してない。」
「ヒジオ…温かいね…」
「麻里絵ちゃんは…残酷だよ。
何もしないから…抱き締めていい?」
「う…ん…」
ヒジオの腕がグッと私を引き寄せて、私の背中がヒジオの胸に着いて、ぴったりくっついた。
私を引き寄せた腕は、グッと拳を握ったまま、私のお腹に着いているだけだった。
「何にも覚えてないの?」
ヒジオの心臓の音が、凄く早く動いているのがわかって、見なくても、あのしょんぼりスタンプみたいな表情になっているのがわかる。
「うん…ヒジオが温かいってことしか…覚えていない…」
「麻里絵ちゃん、映画の途中からずっと泣いてて、お店に行っても泣いてて、だから、タクシーで送って…
帰ろうとしたら、『朝まで一緒にいて』って言ったんだ。」
「うん…何となく…覚えてる。」
「お水飲ませたけど、酔ってるのか、何か麻里絵ちゃんおかしくて…さっさとお風呂行っちゃって、そのあと、あのスウェット渡してきて、俺にも入れって…」
「うん…」
やっぱり、あの段ボール開けたの私だったんだ。酷い女だな私。裕司のスウェット着させるなんて…
「それでソファーにいたら、麻里絵ちゃんが迎えにきて、ここに連れてこられた。
凄く辛くて、なかなか寝れなかったけど…
何も…してないよ。」
「うん…わかった…ごめんね。ヒジオ…」
「悪いと思うなら、もうちょっとだけギュッとさせて…
麻里絵ちゃんの匂い…堪らない…」
………
返事してないのに、ヒジオは全身ぴったりくっつけて、私のうなじに鼻を埋めるようにして、お腹に置いていた拳を開いて、胸の下を押さえて引き寄せるようにして…
ギュッとしがみついてきた。