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50センチの距離
第8章 スクリュードライバー
普通なら客と会話するのも好きだから、割と会話に参加したりもする。さっきの話も他の客なら、よくご存知ですね、元職場です、くらい言ったかもしれないけど、何となくカップルの会話にイキナリ参戦するのも憚られたし、この小生意気な(25、6の若造が昔、なんて切り出して、イタリアンとしては決して安くない価格帯の店を懐かしんでる時点で俺の中では小生意気だ)村上と盛り上がりたくもなかった。

だから、村上が、俺がアルジャーノのシェフだった事実を知ることはなく。彼の中では昔食ったことのある美味いパスタ(自分で言うけど!)に酷似した味の店を発見した、程度なんだろう。

パスタを食べ終えた2人は、それぞれアルコールの注文をする。村上は赤ワイン、彼女は甘いカクテルを注文した。
写真を指差し、「これなんだろう?」と聞く彼女に対して、「…スクリュードライバー…あたりかな?」と答える。

「変わった名前。まーくん飲んだことある?」

「あるよ。癖のないリキュールをオレンジジュースで割るから飲みやすい。」

「…じゃ、私それにしよ♪」
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