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SMを詰め込んだ短編集
第13章 執事の恋心/SM
「こんなの飲めない!」

ヒステリックな声が穏やかな午後の庭を切り裂いた。
美しい薔薇が咲き誇る広い庭に、金の縁をあしらったティーカップがきれいな放物線を描く。煌びやかで繊細な装飾がなされたそのティーカップは、煉瓦で縁どった小路にぶつかって粉々に砕け散った。お嬢様がごねにごねて先週無理矢理取り寄せたものだったのに、新人執事のあの苦労は一体何だったんだと、腹の底からため息が出た。

「大変失礼致しました!すぐに新しいものを…」
「いらない!もうお部屋に帰る!」

壊れんばかりにガーデンテーブルを叩いたお嬢様は顔を真っ赤にしてお怒りになり、新人の執事が焼いたクッキーを右手で勢いよく払い除けた。石畳の上へ散らばったクッキーを狙って小鳥が恐る恐る近寄ってくるのを視界の隅に収めながら、俺は深々と頭を下げた。

「お嬢様、大変に失礼を致しました。どうぞお心を鎮めて頂けませんでしょうか」

顔を真っ青にした新人の執事も俺に倣って勢い良く頭を下げる。可哀想に、新人の執事は両手を震わせていた。

「…いや」
「お嬢様」
「絶対にいや」
「お願いでございます」
「…」

まだあどけなさを残したこのスーパー我儘お嬢様がこんなにもご機嫌ななめになっている原因は、よく分かっている。

こちらの邸宅へ執事として仕えさせて頂ければ一生安泰と言われるほどの、とんでもない財閥。給金は目玉が飛び出る額。その分執事として必要なスキルはかなりの高レベルを要求されるが、懐事情的にも、プライド的にもかなりのやり甲斐が感じられると有名だ。
そんな邸宅へ仕えさせて頂くこと10年。内、お嬢様専属の執事として仕えさせて頂くこと8年。俺は国宝とも呼ばれる方から直々に引き抜きがかかった。労働条件も悪くなく、お嬢様が独り立ちできる良い機会だと思って是非にと返事を出した。
そこでこちらのスーパー我儘お嬢様専属の執事として何人も研修へやってきたのだが、この有様。お茶を入れれば温い熱い、クッキーを焼けば甘い苦い、お召し物は大体気に入らない、靴が嫌だ髪飾りが気に入らないと喚き散らす次第だった。
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