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SMを詰め込んだ短編集
第13章 執事の恋心/SM
そうしてぷりぷりお怒りになり、靴音を鳴らして屋敷へ戻られて行くのを、息を吐き出して見送るしかないのだった。
新人の執事が慌てふためいて、何とか機嫌を直してくれないかと追い掛けるが、更に怒りを買ってしまうのが常だ。ああ、あの新人執事、明日にはきっと屋敷から姿を消していることだろう。彼は1週間頑張ったが、さすがにそろそろ限界だろう。何をしてもお気に召さないお嬢様は、一瞬でも機嫌を損ねればそれはもう大変だ。
今一度大きなため息をついて、俺も屋敷へ戻っていった。

新人の執事を執務室へ下げさせ、俺は1人でお嬢様の部屋をノックした。



「失礼致します、鈴お嬢様」
「…」

返事がないのはいつものことなので、構わず扉を開ける。案の定ベッドがこんもりと膨らんでいた。
思わず笑みが零れてしまった頬を引き結び、背筋を伸ばしてベッドへ歩み寄る。

「先程のお嬢様の態度はいけませんね」
「うるさい!」

ぽふん、と小さなクッションが飛んできた。細腕で柔らかなクッションを投げられても痛くも痒くもないが、お嬢様のご機嫌は最悪だ。片手でキャッチしたクッションをベッドの傍へ置き直し、ため息を零す。
俺のため息を聞いたらしいお嬢様は一瞬肩を震わせたのか、もぞりとブランケットが蠢いた。

「そのような態度はいけないと、いつも言っているはずですが」
「…ごめんなさい」

目を真っ赤にして濡れた猫のようにしょんもりとした顔をブランケットから覗かせた。腹の奥でくつくつ笑ってしまう。

「お嬢様が欲しいと強請ったティーカップも、見るも無惨ですね」
「…ごめんなさい」
「あのクッキーは、新人の執事が今朝から一生懸命焼いたものです。お皿だってお嬢様が強請ったものではありませんか」
「…うん…」
「クッキーの材料はご存知ですね。小麦粉、砂糖、卵…それらはお嬢様が払い除けたせいで全てゴミになりました。俺の言っている意味はわかりますね?」
「…ひどいこと、した…」
「お皿は職人がひとつずつ丁寧に手作りしたものです。それもゴミになりました」
「だってっ…!」
「だって?なんです?」

眉を寄せて見せると、お嬢様の端正なお顔がみるみる青ざめていく。そうして目の縁に涙をいっぱい溜めて、唇を震わせた。
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