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愛おしいキミに極甘な林檎を
第63章 愛おしいキミに……

カラオケ機器はあるものの、何の曲も流れていない静かな部屋に寂しく響く会話。
那砂さんが言った言葉の何かに反応したようにハッとした理人さんはビールを一気に飲み干した。
あっという間に空になったグラスをトンッとテーブルの上に置いてまた肩を落とす。
「実は、小さい方の弟と妹には風子さんのことをなんと言ったらいいのか分からなくて誤魔化しているんですよ。
会いたいとよく言われるので困ってしまいます」
「そうねぇー……。ちびっ子たちはきっとまだ理解できないと思うからそれでいいんじゃない?」
新しいグラスとまだ開けていないビール瓶を持って理人さんの隣の椅子に座った那砂さんも酒を飲み出した。
上品に飲みながらテーブルの上に並んでいる写真を一枚手に取って切なそうな瞳をして微笑む。
「ふふふっ。風子ちゃんと旦那くんったらいい顔してる」
「那砂が望んでいた二人の姿もこれでしょう?」
「ええ。風子ちゃんがこの時に無理をしていたなんて見えないわ。
きっと、この時間がすごく幸せだったから麻酔のようになって、体調が悪くても元気そうに笑っていられたのかもね」

