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明日に架ける橋
第1章 エスケープ
花憐の胸の鼓動は、手紙を読み終わってもおさまることはなかった。

何度も何度も手紙を読み返す。

『あなたにとって良い出会いをもたらしてくれるのではと思っております。』

この文章がひっかかった。

伯母はおそらく相続の条件のことを知っているのだ。
花憐に結婚相手を見つけてほしいと遠まわしに言っているのではないだろうか・・・。

(結婚相手を・・・)

花憐の心は嵐のように乱れた。
事態は伯母が思っているほど簡単なことではない。

まず、花憐が家を出ることが許されるのは、貴子が買い物を指示した時だけである。
それも監視付きの。

貴子が留守の時は比較的’警備’が緩いが、晴彦は一日中家にいるし、花憐が出かけないように見張るということだけは晴彦も聖子も必ずする。逃げられたら困るのは二人とも同じだからだ。

買い物の隙をつくにしても、10月23日に貴子が買い物を指示するかどうか、花憐には操作することなど不可能なのだ。

また、貴子が連れ込んでいる貴子の男が厄介な存在だった。
岩田という名前のその男は、歳が若いのだけが取り柄といった男で、ただ単に貴子のヒモであり、貴子からもらう金でパチンコに行くのが生きがいのような男だった。

貴子がこの若い男に毎晩のように抱かれ、狂った獣のような喘ぎ声が花憐の部屋まで聞こえてくる。
貴子は性欲の処理のためにこの男を食べさせているだけだった。

この男が厄介だというのは、’勘が鋭い’ところだった。何の勘かというと、花憐が逃げ出そうと目論んでいることを見破る勘が鋭いのだった。

花憐は普段通りに装っているつもりなのだが、ちょっとした変化を感じて、先回りして駅で花憐を待ち構えていたり、意味もなく庭をうろうろしたりしていた。
夜中、花憐の部屋の前にずっと座り込んでいた時もある。

花憐がどこかの男と結婚されて困るのは岩田も同様だった。

10月23日に、どうやって家を出るか・・・。
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