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明日に架ける橋
第1章 エスケープ
もう一つの問題はお金だった。
花憐はお金をほとんど持っていなかった。
父が生きていた頃にもらって貯めていた貯金は貴子に全て取られた。

買い物で預かる金をくすねていないか、定期的に貴子が部屋をチェックしにくる。
ベッドとタンスと小さいテーブルだけの部屋を、嵐が襲ったかのように全てひっくり返して
点検する。

そんな状況下でも、花憐は天井裏にわずかなお金を貯めていた。家や庭の掃除の際に落ちていたのを見つけては地道に貯めていた。
ちゃんと数えたことはないが、小銭ばかりで4千円にも満たないだろう。

電車で伯母の家に行くのが一番安くすむが、今まで散々駅で見つかってきただけに、電車は
利用しないほうが良いと思えた。

タクシーを使って世田谷のおばの家へ・・・。

果たして府中から世田谷まで、いったいいくらかかるのだろう・・・。

花憐は頭を抱えた。

この伯母からの誘いは、花憐の人生がかかっているのだ。
失敗すれば、ひどい仕打ちが待っている。
大人しく24歳になるのを待っていればよかったと思うかもしれない。

これが最後のチャンスだということは、花憐には良くわかっていた。
伯母のところへ行ったとしても、すぐに結婚相手を見つけることはできないだろう。
まともな服も持っていない。音楽会には出席できないだろう。

しかし、何もせずに過ごしているよりは、少しの可能性にかけてみたいと思った。
まずは伯母のもとへ行くことで、何かが変わるように思えた。

財産を貴子たちに取られることは、もちろん嬉しいことではないが、それよりもこの家を
奪われることが花憐には辛かった。

父と母と一緒に過ごした大事な家。花憐の人生の中で一番幸せを感じた頃の記憶が奪われて
しまうことが何よりも辛かった。

(この家を守れる最後のチャンスなんだわ・・・)

母のものは全て処分されてしまった今、母が生きていた証であるこの家を守ることが花憐の
使命と思えた。

徐々に勇気が湧いてくる。

花憐の瞳に強い意志が現れた。

なんとしても伯母のところへ行こう。
23日まではまだ二週間ある。ゆっくり考えて、慎重に行動しなくては。

花憐は手紙を天井裏の奥へ隠した。
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