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明日に架ける橋
第2章 秘めた想い
近くのコインパーキングに止めていたシルバーのプジョーが榊の車だった。助手席のドアを
開けてくれる。
車を走らせて榊が言った。

「私ね、落ち込んだ時とか首都高を走るの。夜景見ながら走ってると、東京ってやっぱり
すごいな、私ここで頑張っていくって決めたんだったなって思えてね。初心に戻るっていうか」

花憐は榊のように明るく朗らかな人物でも、落ち込むことがあるのだなと内心驚いていた。
人として当然のことなのだが、榊はそれを感じさせなかった。

榊は花憐によけいな質問もせず、静かに花憐を見守ってくれていた。

夜空にひときわ輝くものが見えてきた。東京タワーだった。

「綺麗・・・・」

オレンジ色に光り、ぼんやりと夜空に浮かんだそれを見ていると、なぜか安心感を感じた。
レインボーブリッジを通ってお台場へと向かう。
駐車場に車を止めて、海浜公園から夜景を眺めた。

「つかぬことを聞きますけどね、あなたは旦那のこと、ちゃんと好きなのかしら?」

榊がおもむろに質問した。
それは花憐自身、いつも心にある問題であった。

花憐は目を伏せた。その答えはもうはっきりしているのだ。
ただ、この気持ちは自分の中に密かに持っておくべきなのだと思い込んでいた。

「・・・・どうやら、本気で好きみたいね」

花憐の様子を見て、榊はよしよしと頭を撫でた。

「いろいろ事情はあるでしょうけど、女が本気で男を好きになったら、とことん貫かないとだめよ。
女は愛してくれる人と一緒にいた方が幸せっていうけど、ワタシは違うと思う。自分が一番
愛している人と一緒にいる方が絶対幸せよ」

榊の言葉は花憐の胸に沁みた。

花憐は父と母が深く愛し合っていた姿を見て育った。
お互いがお互いを愛し、必要としていた。

それこそが夫婦のあるべき形だという気持ちは今もある。
自分にはそれを求めることができないことは、花憐の心を常に重くさせていたからだ。

「あなたが自分の愛を貫き通さなかったら、相手だって応えてくれないわ。人を愛するって、強い心が必要なのよ」

榊の言う通りだと思った。花憐は自分の気持ちは示さないくせに、清人が自分を心から
愛してくれたらどんなにいいだろうと思ってきた。
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