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明日に架ける橋
第2章 秘めた想い
「・・・・・嬉しいんです」
「何が?」
「私を心配して・・・・怒ってくれる人がいることが・・・・・」

貴子たちからは理不尽な怒りを一方的に与えられるのみだった。
こうして自分を想って怒ってくれる人は花憐のそばにはいなかった。

清人は花憐の方に体を向けた。
横になってお互い向き合う体勢になるが、距離は縮まらない。

「家に帰ってきて・・・・君がいなくて、自分でも驚くほど気が動転した」

清人がそっと手を伸ばし、親指で花憐の頬をなぞった。

「ごめんなさい・・・・。一人でいるのが怖くて・・・・」
「誰かが来た?」
「・・・・家の人たちは、私がここにいることを知っているんです」

清人が眉をひそめた。

「私宛に手紙が届いたんです・・・・」
「手紙?」

花憐は火傷のことを打ち明けようと決心していたが、言葉が出てこない。
自分でも忘れられるものなら忘れたい、誰にも知られたくないと思ってひた隠しに
してきたことを、愛する男性に伝えることは容易なことではなかった。

それでも・・・・。

花憐は清人との距離を縮めたかった。
心を通わせたかった。
この火傷が人と親密になることを恐れさせ、心を閉ざさせているのだ。

ここを乗り越えなければ先には進めない。
打ち明けて、清人が離れていってしまったらと思うと、決心が揺らぎそうになる。

『人を愛するって、強い心が必要なのよ』

榊の言葉を思い出していた。
自分に足りないのはその’強さ’だ。

花憐は前だけを見た。

「正確には・・・・写真が送られてきました。私の・・・・体の・・・・・」

花憐の声は緊張と不安で震え、じれったくなるほどに続きがなかなか出てこなかった。
それでも清人は黙って花憐の話を聞いていた。

「私の・・・・右胸と右腕には・・・・大きな・・・・・や、火傷の跡があって・・・・」

花憐は清人の表情を見ることが怖くて、目を瞑った。

「二十歳の時に・・・・油をかけられて・・・・」
「わかった。それ以上言わなくていい」

清人は表情を歪めて花憐の頭を自分の胸に引き寄せた。
花憐の鼻先に清人の男らしい喉が触れた。
震えていた体は、清人の体温を感じて徐々に治まっていった。

「どうして隠してた?俺が君のことを嫌になるとでも?」

花憐はわずかに頷いた。


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