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明日に架ける橋
第1章 エスケープ
「はい」

若い女性の声がして、慌てて名前を告げた。

「有坂花憐と申します。文子伯母さまに会いに伺いました」
「・・・お待ちくださいませ」

花憐は辺りを見渡した。貴子らしき人物はいない。
早く出てきて欲しいという焦りを堪えて、花憐はその場でじっと待った。

しばらくして、一人の女性が外へ出てきた。大きな門の隣の、小さい門を開けて花憐を招き入れた。

「お待ちしておりました。どうぞ」

使用人らしきその女性は、花憐とそんなに歳が変わらないような気がした。
門をくぐると、大きな庭が広がっている。
小さい頃はこの庭で伯母の犬と遊んだことを思い出す。

屋敷は確かに大きかったが、小さい頃の印象よりは小ぢんまりとして見えた。
中世の貴族が暮らしそうな屋敷は、文子の夫である鴻池氏の趣味だったようだ。

花憐は屋敷の一番奥の部屋に通された。

「こちらで少々お待ちください」

女性はそういうと部屋をそっと出ていった。

アンティークの家具で統一された部屋は、花憐にとって眩しすぎた。
母の部屋も、こういった家具で飾られていたのが思い出される。

花憐は落ち着かない気持ちで、ソファに座ることもなくうろうろ歩き回った。

久しぶりの文子との再会である。
綺麗な身なりでもない自分を見て、何て思うだろう。

花憐が最初に何て挨拶をしようかとあれこれ考えている時だった。

ドアをノックする音がした。

「入りますよ」

花憐が答える前に扉が開いた。
そこには車椅子に乗った年老いた文子がいた。

昔はもう少しキツイ目をしていた気がするが、歳を取って、皺も増え、目尻が下がり、
優しい印象を与えた。
それでも溌剌さは失われていない。思ったより若々しく見える。

「伯母さま・・・」

文子はゆっくりと花憐のそばに近寄り、ニコリと笑った。

「こんな格好でごめんなさいね。もう一人では歩けないの」

と申し訳なさそうに言った。

花憐は何も言えず、ただ首を横に振るだけだった。
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