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明日に架ける橋
第1章 エスケープ
目の前の文子は優しく微笑んで花憐を見つめている。
ここへ来ても良かったのだと、安心感が湧いてきた。

「お母様にそっくりね・・・。こうしていると昔を思い出すわ」

文子はしみじみと感情を込めて呟いた。

「ごめんなさいね。あなたが苦労していることを知っていながら・・・。何もできなくて」

花憐はいいえ・・・と小さい声で答えた。

文子が何もしてこなかったことを、花憐は責める気などなかったが、文子は自分が悪かったと思っているようだった。

「つまらない意地なんか張って、馬鹿なことをしたと反省してるの。あなたのお父さんが
亡くなった時に、すぐにあなたを迎えに行くべきだったわ・・・」
「いいえ・・・・。こうして気にかけてくださっただけで十分です。こうしてもう一度伯母さまに会えただけで・・・」

文子は花憐の手をそっと手にとって、手の甲を優しく撫でた。

「せっかくですから、今日はゆっくりしていってね。今日だけじゃなくて、しばらくここにいていいのよ。
お部屋を用意しているから、音楽会までゆっくり休んでちょうだい」

花憐は少し表情を曇らせた。

「伯母さま・・・。私、音楽会は遠慮させていただきたいのです」
「あら、どうして?」
「この服しか持っていないのです。この格好では・・・」
「まあ、そんなこと気にしないで。あなたが着る洋服はこちらで準備します。
まずはお風呂に入ってゆっくりなさいな」
「いいえ、そんなことまでしてくださらなくても・・・」
「お願い。そのくらいさせて欲しいの。私があなたにしてあげられることなんて、このくらいのことしかないのよ。どうかこの年寄りの言うことを聞いてちょうだいな」

文子は子供をメッと叱るような、わざとしかめっ面を作って花憐に言った。

「さ、お部屋に行きなさい。何かあったらすぐにこの子がかけつけますから、何でも言ってね」

花憐は立ち上がって、深々と頭を下げた。

「伯母さま、ありがとうございます」
「音楽会の前に、私の部屋に来てね。あなたの可愛い姿を見せてちょうだい」

花憐は、ハイ!と元気よく答え、部屋を出た。
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