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明日に架ける橋
第1章 エスケープ
案内された部屋は二階にある大きなバルコニー付きの部屋だった。
バスルームとトイレが付いていて、大きなベッドとアンティークの鏡台と椅子。
ソファと大きなテレビも置いてある。一人には大きすぎる部屋だった。

バスルームをのぞくと、既に湯船には湯がはられて、温かい湯気が充満していた。

小さな小瓶がいくつも並び、一つを手に取って蓋を開けて匂いをかいでみる。
バラの濃い香りが鼻を刺激した。

湯船に落とすバスオイルというものかしら、と花憐はその小瓶を傾けてオイルを2、3滴湯船に落とした。

温かい湯に落ちたオイルは、ふんわりと心地よい香りでバスルームを満たした。

すぐさま湯に浸かりたくなり、花憐は服を脱ぎ、体を軽く流すと湯船の中に身を沈めた。
温かい湯とバラの香り・・・。

三日に一度の風呂も、湯船に浸かったことなどなかった。
花憐にとっては考えられない贅沢だった。

右腕の火傷の跡が少しピリピリするが、優しくマッサージすると引き攣れがほぐれていった。

跡を見て、有坂の家のことを思い出した。

今頃、家では大騒ぎになっているに違いない。
晴彦はとんでもないことをしてしまったとパニックを起こしているだろう。

貴子が血眼になって街中を走り回っている姿が想像できた。
今夜にはこの家にやってくるかもしれない。
しかし、文子が貴子をこの家に入れることはないだろう。

ここにいる限りは安心できる。
花憐はそう思う一方で、貴子たちがこのまま大人しくしているとも思えず、何かしらの報復をしてくることは間違いないと確信していた。

文子に迷惑をかけることになるかもしれない・・・。
そう長くこの家にいるわけにはいかないだろう。

しかし、今夜だけでもこの家で過ごし、楽しみたいという気持ちがあった。

火傷の跡は、色は徐々に落ち着いてきたものの、一度ケロイド状になった皮膚が綺麗な皮膚に戻ることはなかった。湯につかって体温が上がると、ピンク色に染まり、痛々しく見えた。

こんな体で、誰と結婚しようというのだろう・・・。
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