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明日に架ける橋
第1章 エスケープ
そういえば、文子の旦那である鴻池氏も音楽が好きで、チェロを弾いていたなと花憐は思い出した。
文子もピアノを弾いていた。この家の人々は、音楽をとても愛しているのだ。

しかし、今日の客たちは音楽どころかお酒やおしゃべりを楽しみにきている人たちが
ほとんどのようだ。



花憐は華やかな雰囲気で既にお腹いっぱいになり、空腹を感じなかった。
椅子に座ってシャンパンをちびちびと飲んで、みんなの様子を何気なく観察しているだけだった。

「こんばんは」

二人の若い男が花憐の前に立った。

花憐は慌てて立ち上がり、こんばんはと答えた。

「初めてお見かけするようですが・・・。鴻池さんの親戚の方ですか?」
「はい・・・。克彦さんの従姉妹の有坂花憐といいます」
「克彦さんの従姉妹?じゃあ、鴻池夫人の姪御さんなんですね?」
「はい。宜しくお願い致します」

二人の男は顔を見合わせ、目配せをし合った。

「・・・鴻池夫人に、あなたのような姪御さんがいたなんて知らなかったな」
「留学でもされていたのですか?」

花憐は返答に困り、曖昧に微笑んでごまかした。

その二人の男が花憐に話しかけたのをきっかけに、次々に若い男たちが花憐のもとへやってきた。
あっというまに花憐の手にはたくさんの名刺が渡された。

みんな花憐のことを知りたがり、質問を浴びせたが、花憐は曖昧に答えるしか術がなかった。
どうしたらいいのだろう・・・と花憐が困り果てていた時だった。

「ちょっと失礼」

大きな体の男が輪の中に入り込んで、花憐の手を引っ張った。
榊だった。黒いスーツを着た榊は先ほどまでの印象とガラリと変わり、どこから見ても紳士的な男性だった。

「ごめんなさい。この子、まだ何も食べてなくて。お食事が終わったらまたお願いします」

強引に、ぐいぐいと花憐の腕を引いて部屋の隅の椅子に二人で座った。

「榊さん・・・」
「ね?だから言ったでしょ?あなた、絶対人気者になるって」

近くを通ったウェイターに声をかけて、料理を適当に取ってきてほしいと告げた。

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