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明日に架ける橋
第1章 エスケープ
「私は何度か鴻池邸の音楽会に参加していますが、あなたにお目にかかったのは今日が初めてだ。普段は何をなさっているのです?」

これは今日、様々な人にされた質問だった。
花憐は苦し紛れに考えた嘘を清人にも告げた。

「長い間・・・病気をしていましたもので・・・・。最近になって、ようやく外へ出られるようになったのです。今は・・・・まだ療養中でして・・・・」

清人はそうですか、と納得したようすを見せて、それ以上はそのことについて質問しなかった。

花憐は気の利いた話題を挙げることもできず、ただ黙って清人の言葉を待った。
清人は花憐と目が合うと、ニコリと笑った。

清人は笑うと、少年のようなとても可愛い印象を与える。
花憐はドキリとしてその笑顔に見惚れた。

「一人になるためにここへ来たのに、私なんかが現れてさぞかしご迷惑でしょうね」

そういいながら、自分が悪いことをしたなどとは露ほども思っていないようだった。

「あなたとゆっくり話がしてみたくて、ついてきてしまったんです。気を悪くされたら謝ります」
「いいえ・・・・。大河さんこそよろしいのですか?あなたとお話したがってる方はたくさんいらっしゃると思うのですけど・・・」
「いいんです。みんな良く知った人達ばかりですから。話題もこれといってないし、あなた以上に魅力的な女性はいません」

さりげなく会話にドキリとさせることを混ぜてくる。そうしながら花憐の様子を伺っているようでもあった。

(この人は・・・・私のことを気に入ってくれてるのだろうか・・・・)

榊の話が頭に浮かぶ。
金持ちの女を物色しているというのは本当なのだろうか。
花憐の胸がざわついてくる。

あの提案を・・・・この人にしてみようか・・・・。
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