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明日に架ける橋
第1章 エスケープ
清人は花憐の顔をまじまじと見て顔をしかめた。

数分前に初めて話した相手に、まさか結婚を申し込まれるとは思ってもみなかっただろう。

清人はすぐに笑って流した。

「いろいろな女性と出会ってきましたけど、こんなに早くプロポーズされたのは初めてだな」

冗談だと流されそうになっても花憐は引かなかった。

「冗談ではありません。私はあと3ヶ月で24歳になります。24歳になるまでに結婚すれば、父の遺産の多くが入ることになってます。24歳になってしまうと、その権利がなくなります。
法廷で定められた分は相続できますが、きっとそれも父の内縁の妻であった女に奪われてしまうでしょう。
家も奪われてしまうのです」

花憐の真剣な表情を見て、清人の笑みは消えた。

「お金は私が一人で細々と生活していけるだけ残してくれれば、全てあなたに差し上げます。
私は父と母と暮らした家が残ればそれでいいのです。浜名湖にある土地も銀座にあるビルも
あなたに差し上げます。

あなたの今ある生活や交友関係を変える必要もありません。好きな方と好きなだけお付き合いしていただいてかまいません。私と一緒に暮らす必要もないのです。今まで通りの生活を続けてください」

花憐の話を、清人は注意深く伺っていた。
信じろと言っても信じられる話ではないだろう。
花憐は少しでも清人が自分の話に興味を持ってくれますようにと祈った。

「・・・大事なことが抜けてるな」

清人の声のトーンが一段下がる。
花憐はドキリとして清人の鋭い眼差しを見つめた。

「遺産はいくら入るんです?」
「・・・・4億ほどだと聞いてます」

清人の喉がわずかに鳴るのが聴こえた。
瞳の奥が光り、清人にとって魅力的な金額だったことが花憐に伝わった。

「つまり・・・。表面上だけの結婚をしてほしい、と言っているわけだ」
「そうです」
「君が受け取る財産のほとんどを俺に譲るだって?」
「はい」
「更には、俺がどんな女とつきあっても口を出さないと?」
「その通りです」

清人は信じられないといった様子で頭を横に振った。
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