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明日に架ける橋
第1章 エスケープ
花憐は火傷のことは告げることができなかった。隠し通すつもりだった。
自分と実際に夫婦の関係を持ってもらう必要はない。他の女性と付き合ってもいいという提案はそういった理由もあった。

「君はどうかしてる。そんな結婚を本当に望んでいるのか?そもそも、君の話がいったいどこまで本当なのか・・・・」
「相続の管理をしている弁護士がいます。その方に確認していただいてもかまいません」

清人は何か言おうとして口を開きかけたが、花憐のまっすぐな瞳を見ると、所在なさげに
うろうろと歩き始め、先ほどのベンチにドカ!と座った。


「とても魅力的な話だけど、では君にはどんなメリットがある?ただその家を守りたいだけ?」
「父が死んでから10年近く、私は閉じ込められて生きてきました。とても・・・人間らしい生活とはいえない暮らしでした。そこから抜け出したい気持ちも強くあります。あの人たちに私の人生までも奪う権利などないはずですから・・・。

自由になれ、父と母と暮らした家で静かに暮らせたら、それ以上の幸せはありません。
私が望むのは本当にそれだけです」

清人はじっと花憐を見つめながらも、落ち着かない様子で体をわずかに揺らしている。

「・・・・その話をしたのは、私が初めて?」
「そうです」
「なぜ私を選んだ?金に困っているように見えた?それとも誰かから何かを聞いた?」
「いいえ・・・。ここにいる方たちは皆さん、お金に困っているようにはとても見えません。
しかし、お金をどんなに持っていても、更に求める人が多いことは知っています。
それにあなたは・・・・・束縛されないという条件つきの結婚に魅力を感じてくれるのではないかと思ったからです」

清人は花憐を見つめて少しの間黙り込んだ。
花憐は怯まず清人を見つめ返す。

「・・・君は、俺が多くの女性と付き合えなくなることを危惧してあえて独身を貫いていると考えた。結婚後も自由にしていいと提案すれば、俺がその結婚に興味を示すと思った。そういうこと?」
「そうです」
「確かに・・・・君の言う通り、俺はこの先一人の女性とだけ関係を続けていけるような性質ではない。その点の見解は間違っていないが・・・」

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