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明日に架ける橋
第2章 秘めた想い
しかし、その迷いは弁護士に会ってすぐに消え去った。

弁護士は土方という、父の学生時代からの友人だった。

めがねをかけ、神経質そうな目をした小柄な男だった。父が生きていた時は良く家を訪れていたが、父の葬式を最期に花憐の家を訪れることはなかった。一見とっつきにくそうだが、プライベートでは温厚であり、花憐のことも可愛がってくれていた。

「花憐ちゃん、久しぶり。ずいぶん綺麗になったね」
「お久しぶりです、土方さん」

土方の事務所は四谷の雑居ビルの4階にある、小さな事務所だった。

「あの、こちらは大河清人さんです。・・・婚約者の」
「はじめまして。大河です。お世話になります」
「ああ、どうも。土方です。有坂の・・・花憐ちゃんの父君の遺言の管理をしています」

そう挨拶すると、名刺を取り出した。
清人も名刺を取り出し、互いに交換し合う。

「まあ、座ってください。狭くて申し訳ない。おーい、お茶頼む」

事務員の中年女性に声をかけると、衝立で区切られているソファのある場所へ二人を誘導した。

「もう入籍は済ませたの?」

土方は書類をパラパラとめくりながら尋ねた。

「いえ、彼女が身分証を持っていないということでまだなのです。土方さんの方で、
何か預かったりしていませんか?」
「身分証を持ってない・・・?健康保険証は?」
「・・・・持ってないんです」

花憐の力ない言葉に土方は黙って頷いた。

「有坂が死ぬ間際に、俺にいろいろ託していったんだけど・・・。花憐ちゃん関係のものも
いくつか預かってます。パスポートも預かってます。必要な時は私を訪ねて、パスポートを
受け取るようにってお父さんに言われなかった?」

最後の質問の時に土方は花憐に視線を向けた。

「言われてないと思います・・・。すみません。言われたかもしれないけど、覚えてないんです」

土方は、いいんだよ、と言って先を続けた。

「では、このパスポートはお返しします。まずは婚姻届を出してきてください。
今後の手続きについてですが、この遺産相続に関しては’信託遺産’といって、信託銀行預かりになってます。実際には私が管理しているのではなく、銀行が遺言書及び財産を管理しているんです。
ええと・・・例えば、毎月生活費として20万円が花憐ちゃんに支給されているはずなんだけど、それは知ってる?」

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