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明日に架ける橋
第2章 秘めた想い
初めて聞いた話だった。
通帳もカードも印鑑も、花憐は持っていなかった。
貴子に全て取り上げられたのだった。

花憐は沈痛な面持ちで「いいえ・・・」と答えた。

土方が怪訝な表情を浮かべた。遺言書作成の時に貴子が散々騒いでいたことを土方は良く
知っていた。
花憐がどんな生活をしてきたかまでは知らないだろうが、貴子によって肩身の狭い思いを
してきたことは察しているようだった。

「銀行が管理しているので、実際の手続きをするためには銀行に行ってもらうことになります。
具体的な金額もその時に銀行から聞けるでしょう。必要なら私も同行しますが?」

土方は清人に尋ねた。

「私たちだけで大丈夫でしょう。何か問題がありましたら、ご連絡させていただきます」

清人は爽やかな笑顔で答えた。
土方は一瞬清人の人格を選別するような目つきになったが、すぐに表情を戻し、書類を手渡した。

「ああ、大事なことを言い忘れていたね。花憐ちゃん、結婚おめでとう。有坂が変な条件付けたものだから、友人として心配していたんだ。ちゃんと期限までに結婚することができて良かった」
「ありがとうございます」
「結婚式はするの?」

結婚式のことなど、少しも考えていなかった花憐は思わず驚いた表情を浮かべた。
清人がすかさず口を開いた。

「式は二人だけで海外で挙げようと思っていますが、もし披露宴をするようでしたら、
土方さんにもお声をかけさせていただきます」
「そうですか。その時は何があっても参加させていただきますよ」

清人の咄嗟の発言は、嘘とは思えないほど自然だった。口八丁とはこういう人のことを言うのだと花憐は半ば呆れ気味に思った。

さっそく区役所へ行くという花憐と清人を見送りに、土方はビルの外まで出てきてくれた。

「それではまた連絡します・・・。ありがとうございました」

花憐が頭を下げてお礼を言い、清人の車に向かおうとした時だった。

「花憐ちゃん!」

土方が花憐を呼び止めた。清人は先に車に行ってると耳打ちして去っていった。
土方の表情は険しかった。
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