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明日に架ける橋
第1章 エスケープ
結局、貴子が父の子を妊娠することはなかった。

父が倒れ、意識もままならない状況の中で、貴子は自分に財産の多くを与えるような内容の遺言状を書かせようとしていた。

父親も母親もいなくなった花憐がまともな結婚ができるはずがない、跡継ぎの期待できない花憐にそんなに多くの財産を残してどうする、といったことや、これまで尽くしてきた自分に何も残さないつもりか、など、毎日父の枕元で貴子は説得を続けた。

父は付き合いの長い弁護士を呼び寄せ、貴子立会いのもと遺言書を作成した。

花憐が24歳になるまでに結婚した場合は、有坂家の財産のほとんど、また、所有する土地全てを花憐に相続させ、財産の一部を貴子に譲る。

24歳になるまでに結婚できなかった場合は、花憐が子として受け取る遺留分の財産を除き、その3分の2と府中の家を貴子に、残りはチャリティー団体へ寄付し、所有するその他の土地と建物は国へ寄付する。


もともと、花憐の母が資産家の娘で、多くの財産を持って父と結婚した。
花憐が全て相続して当然なのだが、貴子がそれを許すはずなどなかった。
財産目当てで父に近づいたのだから、貴子としては根こそぎ自分のものにしたいところなのだ。

24歳という馬鹿げた年齢制限は貴子がつけさせたに違いなかった。

貴子は花憐を結婚させないように必死なのだ。たとえ花憐が24歳までに結婚したとしても、財産の一部は貴子のものになる。何千万円と入るのだが、貴子はそれでは満足できないのだった。

花憐も、ただ黙って過ごしてきたわけではない。
何度も家から逃亡を図ったし、財産などいらないから自由にさせてくれと談判したこともある。

しかし、どんなに逃げても貴子は花憐をつかまえたし、財産などいらないという言葉を信じる様子もまったくなかった。

そして、花憐が20歳の時に、貴子は信じられないことをしたのだった。

台所で食事を作っていた可憐に、揚げ物を揚げるために熱していた油をわざと花憐にかけたのだ。


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