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明日に架ける橋
第2章 秘めた想い
花憐の質問に、清人は軽く眉を上げて皮肉めいた笑みを浮かべた。

「それはまさに杞憂だね。君が鴻池夫人の姪御さんと知ったら、父は珍しく俺を誉めるだろう。
上に4人の兄がいるけど、4人とも残念ながら顔も性格も父に似てしまったから、女性に人気がなくてね。父のおめがねにかなった女性と結婚することはできなかったんだ」

花憐は清人だけ父親が違うという榊の話を思い出した。しかし、このことを訪ねる勇気はなかった。

「父は俺の女遊びについて反対するどころか、応援してくれてるんだよ。顔を合わせれば
『名家の女と結婚しろ』だからね。まるで俺にはそれしか価値がないみたいに」

清人は冗談ぽく自分を卑下した。

「鴻池の家のことは、関係ありません。親戚づきあいもまったくありませんでした。
私は名家の女ではありません」

花憐は文子を巻き込みたくない一心で言った。

「実際の付き合いなんて関係ない。結婚の場合は法律的に関係があるかどうかが大事さ。
それに、君のことも調べさせてもらったけど、君の父君は外交官で、お祖父さんはベルギーの特命全権大使にまでなった。母君は江戸時代から続いた大地主の名家の出身だ。
これを父が歓迎しないはずがない。
大河建設なんて、汚いことを散々やって大きくなってきたんだ。本当の’上流’に憧れている成り上がりさ」

花憐は表情を暗くした。自分は、清人が思っているような人間ではない。
確かに父も母も生前は一般よりも優雅な生活をしていたと思う。

しかし、だからといって自分が同じ生まれの人間とは思えなかった。
一般の人のレベルにも達しない生活をしてきたのだからなおさらだった。

「・・・・父と母はそうかもしれませんが、私はただの庶民です。私と結婚したところで、
清人さんや、清人さんのお父様にとってメリットのあるコネクションが得られるわけでは
ありません」
「さあ、それはどうかな。本当のところ、俺は’家柄’や’権力’なんてどうでもいいんだ。大事なのは’資金’だからね」

清人は次々に料理をたいらげていく。花憐の手は止まったままだった。

「とにかく、父たちのことは心配しなくていい。万が一反対されても、俺は俺のしたいようにするまでさ。あ、そうだ。これを君に・・・・」

清人はそういうと、花憐に一枚の紙を差し出した。
婚姻届だった。


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