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アルルの夜に始まる恋
第1章 いくつかの偶然
ロイは少し笑ってメトロの乗り場へ向かおうとした。
しかし、振り返って唖然とした。足元に先ほどの女性が撮った写真が落ちているではないか。

「!!」

ロイは拾って、慌てて女性を追いかける。

「ちょっと待って!」

女性は自分のこととは思わないのか、振り向かず全速力で走る。
ロイも全速力で走る。

「ヘイ!」

やっとのことで女性の腕を掴んだ。

「え!?」

女性が驚いて振り向く。
ロイはハアハアと全身で息をして、写真を差し出した。

「・・・忘れてますよ。お嬢さん」
「うわあ!私ったら!」

女性は青ざめて再び日本語で叫んだ。

「すみません、すみません。えーと、メルシィ!!」
「ちょっと待って!何をそんなに急いでいるの?良かったら力になるけど」

ロイは心配になり、思わず尋ねた。
女性はロイの言葉に少し驚いているようだったが、藁にもすがるといった様子で答えた。

「大使館に・・・5時までに行かないといけないんです!!」
「大使館?」
「はい。パスポートをなくして・・・」

女性の拙い英語によると、パスポートと現金を失くし、日本に帰るための渡航書を発行してもらうために大使館に行ったのだが、写真が必要なため、急遽写真証明機で写真を撮り大使館に戻るところなのだという。

今日は22日の月曜日だが、大使館の休みは日本の祝日と同じである。
23日は休みのため、なんとか今日中に発行してもらわなくてはいけないらしい。

「日本大使館か・・・。ここからじゃ、今から走っても間に合うかわからない。タクシーで行ったほうがいい」
「でも、私お金も盗られてしまって・・・もう、3ユーロしか・・・」
「僕も一緒に行こう」

ロイはタクシーをつかまえると、二人で乗り込み、大使館へ急ぐように運転手に伝えた。
運転手のおじさんは陽気な口調で、任せておけと言って歌いだした。

女性が心配がるのが伝わってくるが、運転手はパリの道を熟知しており、細い道をすいすいと通ってあっという間に大使館まで運んでくれた。

「あの、ちょっと行ってきます。すぐ終わると思うので、待っててください」

そう言うと女性は急いで大使館の中へ消えていった。

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