この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
月夜の迷子たち
第1章 鏡の中の世界から
紗奈は大きな岩の上に倒れこんでいる男を見つけて立ち尽くした。
岩の表面は平らで、川面よりもわずかに高くなっている。そこに突っ伏すように力なく横たわっていた。
男の体はびしょ濡れで、足は清流に浸かったままである。
(生きてる・・・・?)
紅葉のピークが過ぎた木々の間から差し込む夕日の光は弱く、紗奈の不安をいっそう強くさせる。
紗奈の愛らしい人形のような瞳が陰り、長い睫と一つにまとめた茶色のまっすぐな髪がさらさらと風に揺れた。
水が流れる音に混ざって、低いうめき声が聞こえた気がした。
紗奈は川に入り、男に近づいた。膝上まで冷たい水の中に入ると、寒気が一気に全身に広がる。
紗奈の濃紺のコットンのワンピースと生成のエプロンが水面にふわりと浮いたかと思うと、すぐに水を吸って沈んだ。
「あの・・・・・・」
紗奈は男の肩を掴んで揺らした。
男の首は力なく、紗奈が肩を揺らす動きに合わせてグラグラと揺れた。
やはり死んでいるのかもしれないと、うなじのあたりに冷たいものが走ったその時だった。
「う・・・・・」
男は顔をしかめて呻いた。
(生きてる!)
紗奈はもう一度、今度は強く肩をゆすった。
「大丈夫ですか・・・・!?」
こういう時、名前も知らない相手になんと声をかけたらいいのかわからない。
紗奈は、しっかり!と声をかけ続けた。
男がうっすらと目を開けた。
紗奈はすかさず顔を覗き込んだ。
「大丈夫ですか!?」
男の目は焦点が合わず、視線は空をうろうろと彷徨った。
紗奈は頬を両手で挟んで揺すった。
「起きて!しっかりして!」
紗奈は必死だった。頬があまりに冷たく、意識を失ったらもう最後のような気がしていた。
まずは・・・・そう、まずは自分の小屋に連れていこう。
いや、それとも助けを呼ぶべきなのか。
小屋の電話は使えなかった。先々週もう何度目になるかわからない、ねずみによって電話線をかじられるという被害にあってから不通だった。電波が入らないから携帯電話なども持っていない。
近くにもう一つあるコテージの主は週末だけ訪れる中年の夫婦のもので、今日はその日ではなかった。
救急車を呼ぶなら自転車で10分かかる牧場まで行く必要がある。
紗奈は迷った。この山奥では救急車を呼んでいったいどれだけ時間がかかるのだろう。
牧場主に車を出してもらう方が賢明かと思われた。
岩の表面は平らで、川面よりもわずかに高くなっている。そこに突っ伏すように力なく横たわっていた。
男の体はびしょ濡れで、足は清流に浸かったままである。
(生きてる・・・・?)
紅葉のピークが過ぎた木々の間から差し込む夕日の光は弱く、紗奈の不安をいっそう強くさせる。
紗奈の愛らしい人形のような瞳が陰り、長い睫と一つにまとめた茶色のまっすぐな髪がさらさらと風に揺れた。
水が流れる音に混ざって、低いうめき声が聞こえた気がした。
紗奈は川に入り、男に近づいた。膝上まで冷たい水の中に入ると、寒気が一気に全身に広がる。
紗奈の濃紺のコットンのワンピースと生成のエプロンが水面にふわりと浮いたかと思うと、すぐに水を吸って沈んだ。
「あの・・・・・・」
紗奈は男の肩を掴んで揺らした。
男の首は力なく、紗奈が肩を揺らす動きに合わせてグラグラと揺れた。
やはり死んでいるのかもしれないと、うなじのあたりに冷たいものが走ったその時だった。
「う・・・・・」
男は顔をしかめて呻いた。
(生きてる!)
紗奈はもう一度、今度は強く肩をゆすった。
「大丈夫ですか・・・・!?」
こういう時、名前も知らない相手になんと声をかけたらいいのかわからない。
紗奈は、しっかり!と声をかけ続けた。
男がうっすらと目を開けた。
紗奈はすかさず顔を覗き込んだ。
「大丈夫ですか!?」
男の目は焦点が合わず、視線は空をうろうろと彷徨った。
紗奈は頬を両手で挟んで揺すった。
「起きて!しっかりして!」
紗奈は必死だった。頬があまりに冷たく、意識を失ったらもう最後のような気がしていた。
まずは・・・・そう、まずは自分の小屋に連れていこう。
いや、それとも助けを呼ぶべきなのか。
小屋の電話は使えなかった。先々週もう何度目になるかわからない、ねずみによって電話線をかじられるという被害にあってから不通だった。電波が入らないから携帯電話なども持っていない。
近くにもう一つあるコテージの主は週末だけ訪れる中年の夫婦のもので、今日はその日ではなかった。
救急車を呼ぶなら自転車で10分かかる牧場まで行く必要がある。
紗奈は迷った。この山奥では救急車を呼んでいったいどれだけ時間がかかるのだろう。
牧場主に車を出してもらう方が賢明かと思われた。