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月夜の迷子たち
第13章 暗闇を照らす光
ギィ・・・・・・ギィ・・・・・・・・

俊がオールを動かす度に、ボートが軋んだ。
レイアは目を瞑って俊の向かい側で寝転がっている。

優しい風が頬を通り過ぎていく。レイアの髪が風ではためいて揺れた。

俊とレイアは、俊の叔母が所有している別荘近くにある湖に来ていた。
別荘の敷地内に俊の母が希望して建てた小さな小屋があった。
湖の畔に建っていて、扉をあけたらすぐ大きな湖と森が見えた。
作曲家のマーラーが作曲するために建てたという小屋を忠実に再現した、白い壁に赤い屋根の一部屋だけのかわいらしい小屋だった。


俊は幼い頃、よく母と二人でその小屋に寝泊まりしてヴァイオリンのレッスンをしていた。
小さなキッチンが部屋の隅にあって、家具はシングルサイズのベッドと、食事する用の丸いテーブルと椅子二脚だけだった。
狭いシャワールームとトイレが外付けされているが、風呂はほとんど別荘のものを使用していて、小屋のシャワールームは湖で泳いだ時に使う程度だった。

紗奈と祐哉のことも落ち着き、ずっと働きづめだった俊は久しぶりに長い休みをもらったので、レイアと二人でゆっくり過ごすためにここにやってきたのだった。
梅雨が明けて日差しが強くなっていたが、高山にある別荘は夏でも涼しく、日中でも快適だった。

レイアの白いワンピースの裾が風を含んでふわりと揺れた。
レイアは目を閉じて横たわり、眠っているかのように静かだった。

(まるでシャーロットの姫みたいだ・・・・・・)

絵画で描かれているシャーロットの姫は死に装束である白い服を着て船に乗り、死を迎える。

俊はかつて祐哉とした会話を思い出していた。
あの時は自分でコントロールできない感情などないと思っていた。
でも今は違う。今ならシャーロットの姫の気持ちがわかる。

「何笑ってるの?」

ふと見るとレイアが目を開けて俊を見ていた。

「・・・・・・思い出したことがあって」

俊はシャーロットの姫とランスロットの物語を簡単に説明した。
レイアは興味深く聞いていた。

「外の世界を見たら死ぬ、かぁ・・・・・・・」

レイアはまっすぐに空を見上げて呟いた。

「そんなとこにずっと一人で閉じ込められてるくらいなら、一瞬でも外に出て死にたい」

俊は苦笑した。レイアらしい答えだと思った。
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