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月夜の迷子たち
第6章 恋の炎
土曜日の午後。
祐哉の肖像画がようやく半分ほど出来てきた。

紗奈は俊に今の時点でかかった経費の報告をして欲しいと言われていたので、絵の具や道具を購入した領収証を俊のもとに持っていこうと屋敷へ入った。
征哉やその他の人たちの肖像画をもう一度確認するため、スケッチブックも持っていく。
他の肖像画と並んで飾られるから、調和も必要だと思ったからだ。

パーティールームからきゃあきゃあと女性達の悲鳴のような、喜びの声が聞こえてくる。
紗奈は気になってそっと中を覗いてみた。

まず目に入ったのは、水兵ルックを身にまとったレイアの姿だった。
ふんわりと手触りの良さそうな上質な真っ白のセーラー服。
パンツスタイルだが、レイアの足の美しさがはっきりとわかる。

髪をゆるくまとめ、短髪に見せている。どうやら男装をしてるらしい。
外国の美しい青年のようだった。

ご婦人たちが黄色い声を上げて、写真撮影が行われていた。

紗奈は好奇心に抗えず、更に扉を開けてみた。

レイアの隣りに、レイアそっくりの、しかし彼女よりも表情のないギリシャ彫刻のような麗しい青年が立っていた。

レイアより背が高いその青年は、軍服のような濃紺の上下を身にまとっていた。沢山ならんだ金ボタンが、黒に誓い紺色の服を引き立てている。

あまりにも美しい二人に紗奈は魅入ってしまった。
気付かないうちに、部屋の中に入っていた。

レイアの双子の弟の玲央に違いなかった。
高校生の時よりずっと男らしく成長したが、それでも顎の細さや薄い唇は女性的で、何より目立つ薄いブルーの瞳が中性的な雰囲気を作りだしていた。

おば様たちがタッジオ!タッジオ!と少女のようにうきうきしながら呼んでいる。

「紗奈っち!」

レイアが紗奈に気がついて手招きした。

紗奈はおずおずとレイアに近づく。
満面の笑みを湛えた男装したレイアは、近くで見るとより一層美しかった。

「玲央、高校生の時に私の絵を描いてくれた・・・・」
「松代さんだろ。覚えてるよ」

玲央は思いきり不機嫌だったが、それがまた寄せ付けがたい神秘的な雰囲気を醸し出していた。

「お久しぶりです」

玲央の美しいブルーの瞳が向けられて、紗奈はたじろいだ。

「お、お久しぶりです」

ぺこりと頭を下げて挨拶した。
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