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私の欠けているところ
第1章 『再会』から
ケーキ屋での別れ際
深海さんは
すごく申し訳なさそうにしていた
俺は一緒に居られたことが嬉しかったし
全然迷惑なんかじゃなかったんだけど
深海さんは
妙に落ち込んでたっけ
「沖縄屋は自信あったんだけど…」って。
自信があったのに迷ってしまったことを悔やんでいるのか
それとも他に理由があって元気がなかったのか
その時の俺は知る由もなく
ただただ
駅に向かう元気のない深海さんの後ろ姿を
見送ることしかできなかった
「おぉ梶谷、遅かったじゃないか」
遅れて飲み会に参加すると
先輩の矢部さんが俺に気づき
隣に座れという仕草をみせた
「迷って遅れました、すみません」
「気にすんな。
みんな出先からの集合で
そろってねぇから」
矢部さんは42歳の大先輩で
俺の教育係みたいなもん
頼りになる
気さくな人だ
そんな矢部さんに
俺は深海さんの話をしてみることにした
「実はさっき深海さんと会って」
「深海?」
「はい、総務の深海さんです」
「お〜、時(とき)ちゃんか、懐かしいなぁ」
「え?と、ときちゃん?」
「あいつ今は総務だけどな
昔は派遣やってて
色んな部署にいてな
俺とも一緒に仕事したことがあるんだ。
みんなから時ちゃんって
昔は呼ばれてて…
で?時ちゃんがどうした」
「えっ、あ、いや
道案内してもらったんですけど
迷っちゃって」
「あはは(笑)
そりゃダメだ」
「え?」
「あいつは信じられないくらい
方向音痴だから(笑)」
「そうなんですかぁ」
その時俺は
矢部さんが深海さんのことを
詳しく知ってそうで
ラッキーだと思った
色々情報を入手できそうだからだ
でも
それと同時に
なんで
深海さんのこと
時ちゃんとか呼んでんだよ
とか
なんでそんな前から
深海さんと親しいんだよ
と、嫉妬みたいなものを
感じていた
まだ
深海さんを
好きなわけでもないのに
いや
もう好きになってたのかもしれないな…
その気持ちに
気付かない振りをしていただけで