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私の欠けているところ
第8章 泥沼のような地獄だった


「時ちゃんはいい子だ。
仕事もできるし素直でな
なんせ
一生懸命だし
ズルをしねぇ」


「はい」


「けどな」


「はい」


「付き合うのは
やめたほうがいい」


俺は
矢部さんが前に言った
「けど…」って言葉を
思い出していた


そして
その言葉の意味を
知りたいと思った

身体の関係をもった今
できれば俺は前よりももっと
時を自分のものにしたいと
思っていたからだ

アイツにもう

時を
抱かれたくないと
思っていた


「どうしてですか」


「まぁ…色々あんだけどさ」


「はい」



「お前
時ちゃんの社内恋愛の噂
聞いたことねーだろ?」


「…はい」


「あれはな
時ちゃんが昔
社内の色んな男と
付き合ってたからなんだ」


「え…」


「とっかえひっかえってゆーか
まぁダブリもあったかもしれねーけど
時ちゃんが社員になってから
分かったんだけどな
バイト時代に
そんなことがあったらしい。

いわゆる
兄弟がいっぱいいるってことだ」


ある意味

…俺もだ


「まぁ
断れなくて付き合ってたのかも
しれねーけど
誰とでも寝るって
一時は噂になったんだ」


「そう…ですか」


「社員になってからは
ってゆーか
そーゆー噂が立ってから
言い寄る奴もいなくなったのか
そんな話をもう聞かなくなったんだが」


「はい」


「それから付き合ってる
うちの社員じゃねぇ
時ちゃんの男が
ろくでもないみたいでな
借金取りが会社に乗り込んできたこともあるんだ」


「…え…」


「時ちゃんが保証人だったんだろうなぁ」


「……」


結婚はしたくない

けど
身体の関係は欲しい

身体の関係が保てるなら
金を渡すことは
拒まない


時だ


それはまさに
時だと思った


けど


俺の
兄弟みたいな男が
この社内に
何人もいるとは
思っていなかった俺は


さすがに
ショックを受けていた




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