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私の欠けているところ
第1章 『再会』から
深海さんを見つけたのは
ケーキ屋ではなく駅前の交差点だった
俺が信号待ちをしていると
交差点の向こうで
構内に向かう深海さんの姿を見つけた
やっと会えた喜びで
駆け寄りたい気持ちいっぱいな俺は
信号が変わるのを待ちかまえ
赤から青になった瞬間
走り出していた
なんて声をかければいいのかなんて
考えていなかった
この駅に居るわけを
どう説明するかなんて
用意していなかった
けどとにかく
深海さんを呼び止めたい
俺は深海さんの後ろ姿を
見失わないように
必死で人混みを掻き分けていた
そして
声が届きそうになった
その時
俺は
深海さんの名前を呼べないまま
立ち尽くしたんだ
男
男がいたんだ
ラフな格好をした男が
深海さんの肩に手をかけ
その男を振り向いた深海さんは
嬉しそうに
その男を見つめていた
なんだよ…
男、いたのかよ
その時の
俺の率直な気持ちは
それだった
未婚だけど
男くらいいるだろう
そう考えても
おかしくないのに
俺はなぜか
深海さんに男はいないと
思い込んでたんだ
なんで
そう思ってしまったのかは
わからないが
深海さんに
男の匂いがしなかったように思う
深海さんは大人の女性なのに
まるで
何も知らない女性のような
そんな雰囲気をもってたからだ
けどそれは
俺が勝手にそう感じてただけだって
あとで分かったんだけどさ