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私の欠けているところ
第11章 時を捕まえたときにはもう…
「誕生日?」
「…そう…
なんでだろ…」
「え?」
「自分で
ケーキを買おうとしてたのかな…」
「覚えて…ないの?」
「…うん」
そのとき俺は
ふと
弟のことを思い出した
小学生の頃
弟は
友達に服の袖を破られ
泣きながら学校から
帰ってきたことがあった
母親がいないことを理由に
嫌がらせを受けてたらしいんだけど
数年後
弟にそんな事もあったよなと
話をすると
弟は
その事を
全く覚えていなかったんだ
だから俺は
もしかすると
時は
消したい記憶を
どこかにしまい込んで
しまったのかも…と思った
「あ、あの時」
「え?」
「梶谷くんを
沖縄屋に案内した時」
「あ、あぁ」
「あの時に会ったケーキ屋さんなの」
「あー…そうだったんだ」
「あの日もね」
「うん」
「私、誕生日だったの」
「えっ!そうだったの?!
だったらそう言ってくれたら
良かったのに!」
「どうして?」
どうしてって…
「一緒に
ケーキ食べたかった」
「……」
「え?!
な、なに?
時、何?!」
時は
突然ポロポロと
涙を流しはじめたんだけど
自分でも
戸惑ってるみたいで
えっ…何?…あれ?…
と、呟きながら涙を流し
その涙を
一生懸命
手でぬぐっていたんだ
もちろん
その涙を
ほんとは俺が
拭ってやりたかったし
泣いてる時を
抱きしめてやりたかったんだけど
今の時に
それをしていいのかどうか
俺は迷っていた
「梶谷くん、ごめんね?
私…やだ
…どうしたんだろ…」
「いいよ。
気にしなくていい。
泣いてても
笑ってても
怒ってても
俺は」
時が好きだよ
「……」
と、言いたかった
キスしたの
覚えてる?
抱きしめあったの
覚えてる?
俺が告白したの…覚えてる?
そう、言いたかった
でも
俺にはそんなこと
言えなかったんだ
また時が
壊れてしまいそうで
「時の友達だから」
「ありがと。
梶谷くんは」
「ん?」
「Siriだもんね」
「…あ…うん」