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私の欠けているところ
第11章 時を捕まえたときにはもう…
そんなことを
無表情で話す時を
俺は思わず抱きしめていた
時は
そんな俺を
突き放すことはなかったけど
俺にすがることもなく
ただただ
俺に抱きしめられていた
俺は
時を慰めるっていうか
守りたいっていうか
よくわかんないけど
とにかく
時がもっと壊れてしまいそうで
痛々しくて
時を抱きしめてたんだけど
時は
どう思ってたのかな…
俺に抱きしめられて
「俺は
中学くらいまでだったよ
それからは
ケーキとかプレゼントとか
いらねーって
ちょっとカッコつけてた
誕生日は
わざと友達と遅くまで遊んでさ
家族とは
一緒にいなかったよ」
俺だって
家族と一緒じゃなかった
だから元気出せ
そんなもんだよ
そう言いたかったのに
なんかやっぱり
違う気がして
話すんじゃなかったって
後悔してたっけな
「誕生日のケーキは…」
「ん?」
「おめでとうって
思う人がお祝いするの
生まれてきて
ありがとうって」
「……うん」
「だから私には無かっただけ」
「時…」
なんて言えばいいんだよ
俺は
こんなに悲しい時に
どう言葉をかけてやればいいんだ
言葉が見つからない俺は
抱きしめる手を緩めて
時の頬に触れると
時は
涙ひとつ流さず
ただ真顔で
まるで心を
どこかに忘れてしまったように
真顔で
まだ
天井を見つめていた
そして突然
俺の名前を呼んだ
「陸…」
「…ん?」
「ごめん」
「なにが」
「私…変だよね」
え?何?
記憶戻ったのか?
俺はめちゃくちゃ動揺したけど
とりあえず
知らないふりをする事にした
「いや…別に。
何が変なんだ?」
「うまく言えないんだけど…
色んな事
思い出して…
ちょっと
泣きそう」
そう言った時は
もう涙を流していた