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私の欠けているところ
第12章 時は俺の事を忘れてしまってたんだ
「わかった」
「いいの?」
「しばらくは
Siriでいるよ」
『しばらく』
と言うのは
俺のせめてもの
抵抗だった
その言葉を
時はどう捉えたか
分からなかったけど
俺の承諾に
時は
ホッとしたような
笑顔を見せて
『しばらく』
という言葉はスルーされていた
「Siriさん」
「ん?」
「散歩に行きませんか?」
「散歩なんかして大丈夫?」
「ゆっくり歩けば大丈夫。
プリンが食べたいから
コンビニまで」
死ぬとか生きるとか
そんな話のあとに
プリン?
ちょっと驚いたけど
ホッとすると
人間そんなもんなのかもしれないな
「いいよ。
じゃあゆっくりな」
「うん」
俺がSiriだと
時は素直だった
少しのわがままやお願いを
簡単に口にする
頼るのが苦手で
強がりだった時とは
別人みたいだった
長男気質で
弟には母親代わりだった俺にとって
時の一種の甘えは
心地いいものだったし
甲斐甲斐しく
世話をやけることが
楽しくもあった
だからその頃
どこかで
Siriでいることに
満足感を覚えていたような
気がする
それまでの
時との関係が
あまりにも
歪んだものだったから