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私の欠けているところ
第1章 『再会』から
『梶谷くん』
深海さんは
しばらく俺のことを
そう呼んでたっけ
『陸(りく)』って
呼んでもらうには
相当時間かかったんだよな…
「ケーキ、買うんですか?」
「あ…ううん。
見てただけ」
深海さんが立っていたのは
ケーキ屋の前だった
なぜあの日
ケーキ屋の前で
目を潤ませてたのか知っていたら
俺はあの時
深海さんにケーキを買ってあげたのに
と、今でも思う
今考えても
仕方がないことなんだけどさ
「じゃあ私…」
「あっ」
ヤバい
深海さん帰っちゃうじゃん
そう思った俺は焦った
「え?」
このままじゃ話し足りない
けど
何を話せば…
「あの…」
「うん」
「あ、そうだ
これから飲み会で
沖縄屋って店に行くんですけど
どこか分からなくて
もしかして
深海さん知ってますか?」
嘘だ
沖縄屋は有名で
何回も行ってて
スゲー知ってる
「あーうん、分かるよ。
そっち方向だから
途中まで案内…する?」
「はい!お願いします!」
そんな嘘をついてまでも
俺は何故だか
深海さんと話がしたかった
潤んだ目が気になったからなのか
給湯室での横顔が
忘れられなかったからなのか…
いや
きっと
どちらもそうだ
俺は
深海さんを包む
不思議なものの
虜になっていったんだ