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第2章 お誕生日
「ちょっとトイレに行って来るよ」

父はそう言って席を立った。私は父の背中を眺めていた。途中でおもむろにスマホを取り出すと、メッセージをチェックしている様だった。私の目の前で堂々とすれば良いのにと思う一方で、きっと目の前でされても結局は、同じ事だ。

…パパは私とママよりも、フキさんを選んだ。

それは、どんなに言い聞かせても私の心の中に硬いしこりとなって、疼いた。

ちょうど、デザートのカスタード・アイスクリームを食べ終わる頃に、フキさんはやってきた。父と同じ会社で経理をやっていた人だ。父とは10歳以上年が離れている。母に比べると、地味で大人しい印象を受ける。

…男ウケするタイプ。

まさにその言葉がぴったりだ。母と離婚する時には、既に付き合ってたんだと思う。所謂“不倫関係”ってやつだ。母と離婚してすぐに、父はフキさんと結婚した。男性社員のちょっとした憧れだったフキさんと父が結婚。ちょっとした騒ぎになったらしい。

「初めまして。好ちゃん。フキです」

きっと父は、近くでフキさんを待たせていたんだろう。私は椅子から立ち上がり、初めましてと頭を下げた。

…もしも会いたくないって言ったら、パパはどうしていたんだろう?

席を立ち、フキさんの為に椅子を引く父を眺めていて、ふとそんな風に思った。フキさんと父はコーヒーを頼んだ。

「好ちゃん。お誕生日おめでとう」

フキさんに手渡された紙袋。ありがとうございますと言って受け取る。

「買って来たのは、私だけど選んだのは“お父さん”なの」

きっと2人の時は、名前で呼び合っている筈なのに、こんな時も“大人の気遣い”が見え隠れしていて嫌だ。
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