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第1章 抱かれる女
私は、自転車に乗って塾へと向かった。他の塾生が入り口でガヤガヤと講師と話をしていた。

「連絡が遅くなって済まない。水漏れでオフィスが使えないんだ。だから今週は休講になる。改めてご両親には連絡の手紙を送るから」

皆んなイェーイと嬉しそうに声をあげた。その中にはしゃぐでも無い涼を見つけた。

「涼くん」

私は声を掛けた。

「やぁ。好ちゃん」

ふたりとも自転車置場へと並んで歩く。会社員の帰宅時間で、通りは賑やかだった。数軒先のラーメン屋から良い香りが漂ってきた。

「涼くん。これからどうするの?」

「うーん。どうしようかなぁ。家には誰も居ないし……コンビニ寄って夕飯買って帰るよ」

カラカラと自転車の音をさせながら、2人並んで歩いた。

「じゃぁ。一緒にご飯食べない?塾が終わってからママと外食する約束をしてるの。勿論ママの奢りだよ」

涼は突然の事に返事に躊躇した。

「あ…都合が悪いのなら良いんだ。ちょっと満喫寄って時間潰してから帰るから、気が変わったら連絡して?」

私は携帯の番号をノートの切れ端に書いて渡した。

「じゃあ…」

涼はその場に立ち止まり、手渡した番号を長い間眺めて居た。私は先の信号で右折して、裏通りにある満喫へと向かった。

満喫は時間が空いた時に、週一ぐらいで利用する。ネットも繋がるし、飲み物も飲み放題だから丁度いい。

本棚を回って数冊選び窓側の席に座る。数人の塾生も暫くするとぞろぞろと入ってきた。

…考えることは皆同じか。

私はふと窓の外に目を向けた。帰宅を急ぐ雑踏の波が横断歩道へと押し寄せ流れ出す。

「ここにはよく来るの?」

何冊目かが読み終わる頃に声をかけられた。

「隣座っても良い?」

顔をあげると涼だった。

「番号教えて貰ったけど、来た方が早いと思って」

涼はそう言いながら、鞄を床に置いた。

「電話くれた方が早く無い?」

「そうかな?」

涼は、少し考えてから笑い、私の横に座った。

時に何も話す事もなく、1時間程、お互いに好きな漫画を読んだ。
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