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VERTEX
第10章 取らないで…



涼ちゃんが私の手を握る。


「さっさと仕事を終わらせたかったんだよ。わかるだろ?」

「わかんない!」

「理梨!?」


涼ちゃんの手を振り払ってそっぽを向く。


「理梨…、頼むから…。」

「帰る。」

「理梨…。」


ひたすら涼ちゃんが焦っているのだけは感じる。

涼ちゃんが言いたい事はわかってる。

試合の2週間前だし、これ以上は国崎さんに振り回されたくない気持ちもわかる。

だけど私だって涼ちゃんしか知らない。

涼ちゃんしか恋愛した事ない。

その涼ちゃんが他の人を見ていたら私は捨てられた気分を味わう事になる。

それが嘘とわかってても嫌だった。

VERTEXも芸能界も嫌いだと思った。

泣きたくて…。

涼ちゃんに泣き顔を見せるのが悔しくて…。

泣けないまま涼ちゃんから顔を背けるしか出来ない。


「理梨が嫌ならVERTEXを辞めてもいいよ。」


涼ちゃんがそう言う。

驚いた。

涼ちゃんを見ると笑ってる。


「理梨の為に始めたボクシングだから…、理梨の為なら辞めてもいい。」


平気でそう言う涼ちゃんに驚くしか出来ない。

辞めてどうするの?

お母さんが今更サラリーマンなんか出来るわけがないって言っていた。


「それでいいか?」


穏やかな顔で涼ちゃんが聞いて来る。


「良くない!」

「うーん…。」


涼ちゃんが困った顔をする。

いつだって私が納得をするまで必死に私の為を考えてくれる人…。

これ以上の我儘は無意味な事だと思う。


「VERTEXは辞めなくていいよ。でも、2度とあんな仕事はして欲しくない。」

「そのつもりで桂木さんにはそう言ってある。」


涼ちゃんが和美さんを嫌う理由がやっとわかった。


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