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第16章 受験生…



手を離して!

叫ぼうとして目が覚める。


「理梨!ご飯よ。」


お母さんの声がした。

お父さんがビールを飲む。


「今日はいいお肉だな…。」


そんなつまらない事でお父さんはご機嫌だ。


「理梨が貧血ですって…、だから、しっかりと食べなさい。」


お父さんがご機嫌だとお母さんもご機嫌になる。

平凡な家庭の平凡な子。

なのに、その平凡が幸せだと噛み締めてしまう。

涼ちゃんだけの生活は平凡が難しい。


「お母さん…、お代わり。」


涼ちゃんと一緒だと食べにくいご飯でも平凡な家族の中では好きなだけ食べられる。


「いいお肉の時だけは理梨は食べるわね?」

「お母さんはダイエット中だから私がお母さんの分も食べてあげようか?」

「要らないわよ!明日からまたダイエットするんだから…。」


今は涼ちゃんや霧島さん達の自信がある言葉よりもお母さんの根拠の無い言葉の方がホッとしてしまう自分が居る。


「とにかく、しっかりと食べなさい!アンタ…、一応は受験生なんだからね。」


お母さんの言葉に自分の立場を思い出す。

涼ちゃんだけの人生じゃいけないのかもしれない。

そんな気持ちに変わっていく自分の方が今は楽だとか思った。

翌日からの2~3日は涼ちゃんの方が必ず私の家に現れる。

休暇中の涼ちゃん…。

学校がある私…。

学校から帰るたびにお茶の間で涼ちゃんとお母さんが大福を食べている。


「ダイエットは…?」

「明日からに決まってるでしょ?涼ちゃんだって今しか食べられないんだから…。」


大福は休暇中だからお母さんに付き合って涼ちゃんが食べている。


「理梨も食べる?」


涼ちゃんが私に大福を差し出して来る。

だから…、それはうちの大福です。

こんな平和がもっと続けばいいのにと願ってしまう。


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