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第21章 負傷…



リングの中央に涼ちゃんが立っていた。

額から血を流し、チアノーゼを起こした顔で相手の絞め技を受けたまま相手を抱えるようにして、ゆらゆらしながらも立っている。

涼ちゃんの身体が宙に浮いたように見えた。

シュート…。

ズドンッと鈍い音がリングに広がった。

僅かに相手の絞め技が緩んだ隙に涼ちゃんが抜け出してマウントを取る。

グシャッ…

鈍い音が再び響く。

グシャッ…グシャッ…

ゆっくりとその鈍い音がするたびに涼ちゃんが手を振り上げる。


「ひっ…!?」


会場内から悲鳴も聞こえる。

マウントを取った涼ちゃんが相手の顔面に向けて容赦なく拳を叩き込む音…。

いつもなら湧き上がる会場内が静まり返った。

格闘の試合というよりも殺戮の瞬間を観ている感覚にゾッとする。

もう…、いいから…。

RYOJIでなく私の涼ちゃんに戻って来て…。

ゴングが鳴る。

ゆらりと立ち上がった涼ちゃんがコーナーへ戻る。

レフリーがなかなか立ち上がらない相手の目を確認する。

両手を交差する仕草をレフリーがすると試合終了を知らせる為にゴングが連続で鳴らされる。

わぁ!

と会場は一瞬にして盛り上がる。

涼ちゃんが篠原さんにタオルで頭を押さえられた状態でリングから降りて行く。

行かなきゃ…。

涼ちゃんのところに…。

気持ちだけが焦る。

試合終了はしても、今しばらくは客席から動けない。

次の試合準備のアナウンスが流れるまでは客席から立ち上がってはいけない規則。

早く…。

僅か2、3分の時間が長く感じる。

アナウンスが入った瞬間、立ち上がって通路を走る。

本当は走る事も許されていない。

それでも今はこの客席を飛び出す事しか考える事が出来なかった。


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