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第23章 敗北…



テーマソングに合わせて軽くフットワークを見せた彼がリングの上に上がって来る。

観客席をリングの上からぐるりと見渡すと私の方を向いて立ち止まる。

その顔を思いっきり睨んでから呟いた。


「負けたら…、許さないから…。」


ニヤリと笑った涼ちゃんが居た。

頭の包帯は外している。

怪我なんかどこにもしなかったような演出。

だけど相手からの打撃を僅かでも受ければ再び出血する可能性があり、再び出血をすればタオルを入れて負けを宣言すると会長さんが言っていた。

ギリギリの状況に追い込まれた試合…。

身内の誰もが涼ちゃんを応援していない状況…。

会長さんですらタオルを入れて涼ちゃんを裏切ると宣言をしたのに私だけでも応援をしてあげなければ涼ちゃんは自分にも未来にも負けてしまう。

レフリーが反則の説明をする。

そして、ゴングが鳴った…。





スローモーションのように見える。

軽やかなフットワーク…。

相手も上手いと感じさせる短く軽いジャブが続く中でワルツを踊るようにゆったりと余裕を見せた涼ちゃんが全てを避けて相手の懐に入り込む。

笑っている。

涼ちゃんがずっと笑いながら戦っている。

馬ー鹿…。

真面目に戦いなさい!

後で叱ってやらなければ…。

そんな事を考える1Rが終わる。

リングのコーナーに戻った涼ちゃんに会長さんが何かを耳打ちすると涼ちゃんがニヤリと笑って頷く。

パーンッ…。

と涼ちゃんの背中を大きく叩いた会長さんが涼ちゃんをリングに送り出す。

涼ちゃんが会長さんに一瞬、嫌な顔をする。

ハリセンを受けた時と同じ顔…。

私が叱る前に会長さんにも叱られたのだと私には手に取るようにわかる。


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