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第1章 行かないで…



勝った男はレフリーの手から離れるとセコンド達に背中を叩かれたり乱れた髪を整えられる。

敗者がリングから降りて居なくなると勝者はファンサービスの為に客席に向かってファイティングポーズを取ったり頭を下げたりする。

それが終われば30秒の撮影会…。

リングの1箇所に集まるカメラマンに向けて勝利のトロフィーを握り拳を見せてポーズを取る。

パシャパシャとフラッシュの音が鳴り響く。

顔や身体が真っ白になるほどのフラッシュを浴びる男が私に気が付いた。

口元がニヤリとしてバチッとウィンクをする。

馬ー鹿…。

そいつにそう言ってやりたい。

いつもいつも…。

人に心配ばかりさせて…。

私は思いっきり不機嫌な顔で睨みつける。

男は全く気にする素振りもなく、ラウンドガールと呼ばれる水着姿の綺麗なお姉さんの肩を抱きながらリングから降りて退場した。

ムカつくー!

一言文句を言ってやりたい。

だから客席を立ち、通路を抜ける。

大した通路じゃない。

所詮は地方巡業レベルの試合…。

地方にある小さなアリーナの小さな大会。

今日に限って客席は立ち見が出るほどの満席だけど、いつもならガラッガラッの客席。

客席を出るとすぐにもう一つの通路の扉がある。

関係者専用通路…。

裏方の扉…。

その扉をそっと開けて中を覗いてみる。

通路には何人かの関係者がウロウロとしている。

その中に知り合いの関係者が居ないかを探す。

知り合いさえ見つければ私は中に入れて貰える。

運良く知り合いが見つかった。


「篠原さん!」


Tシャツにジャージのズボンを履いた如何にもスポーツマンな男の人に声を掛ける。

篠原さんは今はもう30歳だから現役は引退するかもしれないと諦めて若い人のセコンドに付いている。


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