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VERTEX
第1章 行かないで…



「理梨(りな)ちゃん、おいで…。」


糸のような細い目を更に細くして笑顔になる篠原さんが私に手招きをしてくれる。


「涼(りょう)ちゃんは?」


篠原さんに聞いてみる。


「会長と控え室…。」


篠原さんが苦笑いをした。

あー…、なるほど…。

ちょっとだけ、いい気味だとか思っちゃう。

篠原さんと共にその控え室へと向かう。

控え室と言っても大きなイベントではないから各ジムに一部屋という大部屋の控え室…。

うちのジムからは今日の試合に3人しか出ていない。

試合とはシュートボクシングの試合…。

これでも一応はプロの試合…。

客席はちゃんとチケットが販売されてパンフレットも販売される。

試合内容は後日、DVDになって発売されたりもするけど、無名選手ばかりだから売り上げは知れてる。

所詮、地方巡業…。

客席はパイプ椅子をリングの周りに並べる程度。

アリーナ席などある訳もなく、前列は大概どこかのジムが選手の家族などの身内用にと買い占められる程度。

テレビ放送される一流クラスになるまでは、こういう地方巡業で名を上げて勝ち進むしかない世界。

そんなトップ選手になれる人は本当に極一部の人だけというシュートボクシング。

昨今の格闘ブームで、夏や年末にスペシャル番組が組まれるようになってからは、この世界に憧れて、その道を目指そうとする選手が確かに増えている。


VERTEX…。


頂点という名の番組企画で格闘の頂点を極めるまで目指す世界…。

そこで勝ち進む事が出来ればトップアスリート扱いでタレントのようにバラエティー番組に出たり、雑誌モデルなどの仕事が出来るようになる。

今日はその世界へと私が知っているジムから1人の男の人が旅立つ。


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