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VERTEX
第3章 帰りたくない…
「そんなに似合わないか?」
不安そうに涼ちゃんが聞いて来る。
「うん…、似合わない。」
「次はもう少し違う変装を頼むしかないか…。」
涼ちゃんが独り言をブツブツと言う。
変装?
その言葉の意味は中華街に入って車を駐車場に停めてすぐに理解をした。
5分も歩かない内に霧島さんがファンに囲まれた。
「すみません、サインお願い出来ますか?」
「写真をお願い出来ますか?」
始めは2~3人の男の子達だった。
それが、あっという間に他の男の人や女の人が集まって来た為に霧島さんと静香さんの身動きが取れなくなってしまった。
「すみません、今はプライベートなので…。」
霧島さんがやんわりとサインや写真を断っている。
VERTEXの商品として契約をしている選手は迂闊に写真やサインをファンに認める事が出来ない。
サインはファンの為にサイン会のチケットをVERTEXが販売しているからだ。
そんな霧島さんの横を私の肩を抱いて何食わぬ顔で涼ちゃんがすり抜ける。
「変装して正解だろ?」
ニヤリと涼ちゃんが笑った。
変装をしないと、もう私とは普通にデートも出来ない人になったと感じると寂しさが込み上げて来る。
涼ちゃんのダボダボのダンガリーシャツを握る。
「理梨とのデートは誰にも邪魔をされたくない。」
私の頭にキスを落とす。
だったら…、これ以上はカッコ良くならないでよ。
寂しさと悔しさが混ざり合う複雑な気分で霧島さん達がファンの人達から逃げて来るのを涼ちゃんと2人で待った。
お昼は霧島さんの行き付けの中華料理店。
霧島さんの名前で個室の予約がしてある。