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第3章 帰りたくない…



その個室に入るなり霧島さんが嘆いた。


「俺も変装すりゃ良かった。」


前は霧島さんも静香さんの為に変装をしてデートをしていたらしい。

静香さんと結婚をした今は2人で堂々と歩けるからと霧島さんが変装を止めた途端に今日みたいになってしまう。


「気にしないで食事にしましょう。中華料理は涼二君が好きでしょ?」


霧島さんを慰めて静香さんがクスクスと笑う。

静香さんが言う通り、涼ちゃんは中華料理が好きだ。

特に点心が好きだから霧島さんの嘆きもそっちのけでメニューに食い入るようにして見ている。


「こら!メニューを見せろ!」

「理梨も小籠包を食うよな?」


私のメニューまで勝手に頼む気満々の涼ちゃんに呆れてしまった。

中華料理が好きでも普段は栄養制限などで食べられない料理だから、こういう時の涼ちゃんは必死だ。

お構い無しに頼む涼ちゃんに比べると霧島さんは食が細いと感じる。

更に細いのが静香さん…。


「もしかして…、静香さんの体調が悪い?」


なんとなく、そう感じた。

ただでさえ食が細い静香さんは何も頼んでいない。

それどころか霧島さんが小皿に取り分けた料理にすらほとんど手を付けてない。


「理梨…、小籠包…。」


中華に必死な犬は私の分まで欲しがっているくらいにガツガツと食べている。


「ダメッ…。」


とりあえず犬にお預けをして静香さんを見た。

静香さんが俯き、代わりに霧島さんが答える。


「2人分、食べないとダメなのに食べられないらしいんだ。」


照れた顔をする霧島さんの言葉に静香さんまでもが赤い顔に変わった。


「おめでとうございます!」


静香さんが妊娠中のニュースに嬉しくなった。


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