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VERTEX
第26章 身の程知らず…



翌日からは午前中はデート…。

午後からは涼ちゃんをロードに連れて行く。

ただ走るだけなのに涼ちゃんがやたらとご機嫌なのが不思議に感じる。

自転車で追いかける私の方が白い息を吐いて必死にならないと置いてきぼりになりそう。


「走るだけなのが楽しいの?」

「全身を動かしてそれなりに使ってないとどこか勘が鈍るんだよ。変に興奮とかするし…、だからロードだけでも自分になれる感覚がするんだ。」


ファイターなんだと思う。

ジムではリングの上に上がったら絶対に止まるなと最初に教えられる。

止まったら負けるから…。

誰も彼を止める事は出来ないのだと感じる。

いつものように公園までを走り、今日は公園で涼ちゃんが柔軟を始める。


「ジムに行きたい?」

「理梨を抱きたい…。」


体力が有り余っている涼ちゃんはお断りだとため息を吐くと


「ああ…、やっぱり涼二と理梨ちゃんだ…。」


そんな声がする。


「胡桃さん…。」

「お正月でも相変わらずなのね?」


胡桃さんは私を見ずに涼ちゃんに話しかける。

アリーナでの胡桃さんとの会話を思い出す。

彼女は涼ちゃんを可哀想だと言っていた。

その言葉が怖くて私は胡桃さんに近付けない。

涼ちゃんは胡桃さんを無視したまま柔軟を続ける。


「無視しないでよ。」


また胡桃さんが涼ちゃんに話しかける。


「邪魔なんだよ。例えVERTEXの記者でもファイターの邪魔はするなって契約だろ?」


涼ちゃんが冷たい声で言う。


「理梨ちゃんなら邪魔にならないって言うつもり?」

「当たり前だろ。」

「涼二を見捨てて裏切る子なのに?」


胡桃さんの言葉が痛かった。

私は自分がVERTEXから逃げたいと思うと平気で涼ちゃんを裏切り見捨ててしまう。

弱い人間だから…。

自分をそう思うだけで泣きたくなる。


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