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VERTEX
第30章 星に願いを…

「さぁな…、俺は涼二に生チョロい事は教えてないつもりだよ。」
篠原さんはやっぱり苦笑いのまま私に言う。
リングでは獅子のようなミケに仔犬がどうにか近付こうともがいているようにしか見えない。
ただ、ひたすらボディーブローを受けている。
涼ちゃんの足がスピードを失くし、ミケに良いように打たれ始めていた。
「タオルを…。」
投げるべきかの判断すら私には出来ない。
会長さんがタオルを投げると言った時は涼ちゃんが一生恨むと言ってた。
私は恨まれるべき?
ミケがニヤニヤとしながら涼ちゃんに力の差を見せつける。
涼ちゃんは肩で息をして、そんなミケに喰らいつく。
ボロボロになっても倒したい人なの?
それとも負けても意味があるの?
お母さんが言ったように努力だけを認めてあげれば涼ちゃんは満足してくれるの?
涼ちゃんが努力だけでミケに立ち向かっているようには見えない。
涼ちゃんにはミケと戦う事に意味があるのだとだけ私には感じる。
考え込む間に2Rが終わる。
篠原さんはさっきと同じように涼ちゃんの身体のチェックをする。
涼ちゃんがハッハッと短く息をする。
「辛いだろうがゆっくりと肺に酸素を入れろ。チアノーゼを起こすぞ。」
「うっす…。」
篠原さんの指示で涼ちゃんの呼吸が変わる。
「勝てそうか?」
「当然…、ミケさんには悪いけど俺はボクサーじゃなくファイターですから…。」
胸から下を真っ赤にされているのに涼ちゃんがニヤリといつもの笑いを浮かべた。
まだ…、戦えるの?
涼ちゃんとの距離が遠くて聞きたい事が聞けない。
インターバルの1分があっという間に終わった。

