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第1章 行かないで…



後は涼ちゃんの前に立ち、力任せにタオルで涼ちゃんの頭をゴシゴシと拭いてやる。


「痛いぞ…。」


涼ちゃんが私に情けない顔をする。

私には犬男の涼ちゃんだから…。


「うるさい…、拭いて貰ってるんだからありがとうくらい言ってよ。」

「ありがとう。」


真っ直ぐに私を見て笑顔で答える涼ちゃんにドキドキとかしちゃう。

この瞬間が一番悔しい…。

泣き虫だったくせに…。

トロくてダメ男だったくせに…。

今や地元では敵なしの高校生チャンピオン…。

金のメッシュを入れたサラサラの髪があんなにゴシゴシとしてやったのに縺れる事なくサラリと涼ちゃんの額にかかる。

少し長めの髪…。

昔は女の子みたいだったのに…。

今はもう完全な男の顔。

鋭い目に高い鼻…。

身体なんかムキムキでリングに上がるだけで女の人がキャーキャー言う。

その身体を隠すように涼ちゃんの頭からダサいTシャツを被せてやる。


「試合の後はすぐに汗を拭いてシャツを着ないとダメでしょう?」


母親のように私が言うと涼ちゃんがニヤリと笑って私に抱きついて来る。


「俺…、カッコ良かった?」


私の為だけにカッコいい男になろうとする涼ちゃん。


「全然、カッコ悪かった…。」


嘘を言う。

本当はカッコいいよりも怖かった。

1R目は涼ちゃんが一方的に攻撃をしていた。

2R目にK.O.するつもりで涼ちゃんが相手に突っ込んだ。

相手はこのチャンスを待っていた。

カウンター狙い。

相手の距離に入った涼ちゃんはシュート(投げ技)をくらい、絞め技へともっていかれた。

危うく涼ちゃんの右腕が折れるかもしれないというところまで相手の絞め技は決まっていた。


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