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VERTEX
第1章 行かないで…

だけど涼ちゃんはパワーファイターだ。
相手の絞め技を外す為に左手だけで相手の顔が腫れ上がるくらいのパンチを入れる事に成功して絞め技からはなんとか逃れる。
3R目は涼ちゃんは右腕に痺れを残したまま戦った。
常に自分の距離を保ち、1R目と同じ状況で相手からは1発も受ける事なく優勢試合をした。
それでも私は怖かった。
無茶をすれば天才と言われる涼ちゃんでも身体が潰されてしまう格闘という世界が怖かった。
「ほら、見ろ。理梨ちゃんだってカッコ悪いと言ってるだろ?焦って2Rで仕留めようとするからそうなるんだ。3Rまで相手にスタミナを使わせてから仕留めりゃ良かったんだ。タフな奴には忍耐って奴が必要だって事をその悪い頭で覚えろ。」
会長さんが私の後ろからブツブツと言う。
涼ちゃんの身体を壊さない為のお説教だからちゃんと聞くしかない。
「倒せると思ったんだ…。」
拗ねたように言いながら私のお腹の辺りに涼ちゃんが顔を埋めて私の腰に回す手に力が入る。
涼ちゃんの頭を撫でてやる。
「霧島さんの試合が始まるから…、ちゃんと勉強しないとダメだよ。」
本当は嫌だけどそう言ってあげる。
私の言葉で控え室は一段と殺伐とした雰囲気になる。
「霧島?準備は?」
「出来てますよ…。」
涼ちゃんが居る反対側の壁の長椅子からゆらりと背の高い男の人が立った。
爽やかで甘いマスク…。
格闘選手よりも俳優の方が似合う人。
身長が178で鍛えられた身体は涼ちゃんよりも一回り大きい。
涼二ちゃんは176でちょっと痩せ型ファイター。
霧島さんとは体重が違うから階級制のシュートボクシングの試合では当たる事はない。

