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VERTEX
第7章 仕事だから…

涼ちゃんだけが無表情のまま…。
監督さんが国崎さんと涼ちゃんにシーンの内容を確認する。
ギリギリまで険悪な雰囲気だと思っていた。
なのに…。
スタートの声がかかった瞬間だった。
幸せそうに満面の笑みを国崎さんが涼ちゃんに向けた。
スタッフの人も誰もがその笑顔に惹き込まれる。
涼ちゃんが穏やかな笑顔を国崎さんに返す。
そっと国崎さんの手を壊れ物のように大切に持ち上げるとゆっくりとその手に指輪をはめる。
国崎さんの目が潤み涙が浮かんだまま涼ちゃんと見つめ合う。
知らない人が見れば本物の結婚式に見えそうなシーンに私だけが胸に痛みが走る。
カットの声が上がると拍手が沸き起こった。
文句無しのシーンだったと監督さんが涼ちゃんと国崎さんを絶賛する。
お腹の中がモヤモヤとする。
仕事だから…。
あれは嘘だから…。
そうやって自分を誤魔化した。
バスがまた移動する。
途中のレストランで食事だけど食欲がない。
「理梨?」
涼ちゃんが心配そうに私の顔を撫でて来る。
涼ちゃんを誰にも取られたくないと思った。
海岸のシーン。
水着の国崎さんと手を繋いで波打ち際をじゃれ合って歩く。
偶然、少し大きな波が上がり国崎さんが逃げようとすると涼ちゃんが笑って国崎さんの腰を抱き上げる。
必要なシーンはもう撮影が終わっているのにカットがなかなかかからない。
早く終わって…。
私だけがイライラとする。
国崎さんを抱えて涼ちゃんが笑顔を続ける。
カットがかからない限り涼ちゃんは笑顔で国崎さんを見つめている。
見たくない…。
泣きそうになる。
やっとカットがかかり、日暮れまでの休憩になっていた。

