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Jacta Alea est.
第1章 叙任式
「前教皇が直々に指名するほどの剣士と聞いてさぞかし屈強な男と思っておりましたが、随分と壮年ですな。我々と年もそれほど変わらなそうだ」
メーヴェの隣に立つ赤毛の男性――メーヴェの次に老いているからおそらくガルヴァドス大司教だろう――が不躾に言った。その言葉に他の大司教も釣られて笑い、アヴィレスは自分がいかに場違いなのか思い知らされた。ジョナサンやメーヴェに呼ばれて来たとは言え、歓迎されていないようであった。それを表情には出さずに、また愛想良く微笑み返すだけを返事とした。
「まぁそう仰らずに。老いているのは経験豊富な証拠です。前教皇の旧知の仲だというのにあまり若すぎても不安ですし、平和慣れした聖都の<神の鎖の騎士団>よりよっぽど頼もしいですよ」
そこでぴしゃりと言い放ったのが、大司教の中で最も若いリシャールだった。
青みがかった長い黒髪を1つに結んで肩に垂らし、銀縁の利発そうな眼鏡の奥にはグレーの涼やかな瞳がある。まるで絵画から出てきたような整った容姿で、なんとも妖艶な美しさを持つ美男であった。
アヴィレスを庇ったのかどうかは定かではないが、リシャールが言い放った後、他の笑っていた大司教たちは罰が悪そうに押し黙った。
「皆、お喋りはそこまで。教皇様がいらっしゃったぞ」
終始沈黙を守っていたメーヴェはちらりと玉座の奥の扉に目をやった後、慌てたように言った。その言葉に大司教たちは姿勢を正し、アヴィレスも先程の説明にあったように頭を垂れてその場に片膝をついて跪いた。
しばらく待った後、軽やかな鈴の音がした。教皇が来た合図である。
革靴の音とマントが床に当たる衣擦れの音がして、それが止まった後に玉座に誰かが座る気配がした。頭を下げるアヴィレスの視界は一面の赤い豪華なカーペットであり、教皇の顔を見ることはまだできない。
「これより、アヴィレス・バトラーの近衛騎士叙任の儀を執り行う」
メーヴェの取り澄ました厳格そうな声がした後、鞘から剣が抜かれる音がした。
その後、ゆっくりと階段を下りてくる黒い革のブーツとその奥で揺れる赤いマントがアヴィレスの視界に入った。教皇が誓いの剣を持って、アヴィレスの傍に立った。
メーヴェの隣に立つ赤毛の男性――メーヴェの次に老いているからおそらくガルヴァドス大司教だろう――が不躾に言った。その言葉に他の大司教も釣られて笑い、アヴィレスは自分がいかに場違いなのか思い知らされた。ジョナサンやメーヴェに呼ばれて来たとは言え、歓迎されていないようであった。それを表情には出さずに、また愛想良く微笑み返すだけを返事とした。
「まぁそう仰らずに。老いているのは経験豊富な証拠です。前教皇の旧知の仲だというのにあまり若すぎても不安ですし、平和慣れした聖都の<神の鎖の騎士団>よりよっぽど頼もしいですよ」
そこでぴしゃりと言い放ったのが、大司教の中で最も若いリシャールだった。
青みがかった長い黒髪を1つに結んで肩に垂らし、銀縁の利発そうな眼鏡の奥にはグレーの涼やかな瞳がある。まるで絵画から出てきたような整った容姿で、なんとも妖艶な美しさを持つ美男であった。
アヴィレスを庇ったのかどうかは定かではないが、リシャールが言い放った後、他の笑っていた大司教たちは罰が悪そうに押し黙った。
「皆、お喋りはそこまで。教皇様がいらっしゃったぞ」
終始沈黙を守っていたメーヴェはちらりと玉座の奥の扉に目をやった後、慌てたように言った。その言葉に大司教たちは姿勢を正し、アヴィレスも先程の説明にあったように頭を垂れてその場に片膝をついて跪いた。
しばらく待った後、軽やかな鈴の音がした。教皇が来た合図である。
革靴の音とマントが床に当たる衣擦れの音がして、それが止まった後に玉座に誰かが座る気配がした。頭を下げるアヴィレスの視界は一面の赤い豪華なカーペットであり、教皇の顔を見ることはまだできない。
「これより、アヴィレス・バトラーの近衛騎士叙任の儀を執り行う」
メーヴェの取り澄ました厳格そうな声がした後、鞘から剣が抜かれる音がした。
その後、ゆっくりと階段を下りてくる黒い革のブーツとその奥で揺れる赤いマントがアヴィレスの視界に入った。教皇が誓いの剣を持って、アヴィレスの傍に立った。