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Jacta Alea est.
第1章 叙任式
アヴィレスのバトラー家はカートル家に忠誠を誓った旗主であり、2人は幼い頃から親しく、食事を共にすることも多かった。10歳年上であるジョナサンはアヴィレスを弟としてよく面倒を見て、アヴィレスはジョナサンを兄として慕っていた。
アヴィレスはメーヴェと話しながら、ジョナサンがニコレウス3世として即位した時の光景を思い返していた。大陸中の諸侯に見守られながら、この聖都の中央に敷かれた赤いカーペットを、白い聖衣を着て歩くジョナサンを遠くから見ていた。祝福の白い鳩が飛び、鐘が遠くで鳴り響いていた。
「……『聖人は短命』、世の常ですね」
「…そうですね、不条理そのものだ」
メーヴェとアヴィレスは目を見合わせて、気まずそうに愛想笑いを交わした。
来客用の部屋に到着したのか、傍に控えていた騎士が2人のために部屋のドアを開けた。
季節の花であるアヤメ、ゼラニウム、アマリリスが飾られ、高級なシルクに包まれたキングベッドと大きな暖炉があり、見るからに豪華な客室であった。
アヴィレスがメーヴェをソファーに導くと、メーヴェは小さな声で礼を言ってソファーに腰掛け、深く溜め息をついた。アヴィレスは彼の向かい側のソファーに深く腰掛けた。扉の傍で控えていた騎士がワインを注ぎ、2人を挟むテーブルに置いた。
「……それでメーヴェ大司教、なぜ私は…」
アヴィレスは用意されたワインを一口含む。南のベリオン産のものなのか、一口だけで上等なものだと分かった。
2人とも腰を据え落ち着いたところで、アヴィレスは本題に入ろうとして声を掛けると、メーヴェは唇の前で人差し指を立てた。それを見てアヴィレスは思わず口を噤んだが、なぜ沈黙しなければいけないのか分からなかった。
メーヴェはぱちんと指を鳴らして扉の傍に控える騎士に「外してくれ」と言った。騎士は鎧をかしゃりと鳴らしながら言われた通りに部屋から出ていき、豪華な客室に2人は取り残された。
メーヴェの眉間にある皺が一層深くなっていた。元々愛嬌がある人であったが、年をとって毛髪は白くなり、年相応の厳格な雰囲気が漂っていた。
「……どこに敵が潜んでいるのか分かりませんので」
「敵?先程の騎士が敵なのですか?」
「いえ、分かりません」
状況が把握できずに戸惑うアヴィレスを、メーヴェは深い茶色の目で見つめた。
アヴィレスはメーヴェと話しながら、ジョナサンがニコレウス3世として即位した時の光景を思い返していた。大陸中の諸侯に見守られながら、この聖都の中央に敷かれた赤いカーペットを、白い聖衣を着て歩くジョナサンを遠くから見ていた。祝福の白い鳩が飛び、鐘が遠くで鳴り響いていた。
「……『聖人は短命』、世の常ですね」
「…そうですね、不条理そのものだ」
メーヴェとアヴィレスは目を見合わせて、気まずそうに愛想笑いを交わした。
来客用の部屋に到着したのか、傍に控えていた騎士が2人のために部屋のドアを開けた。
季節の花であるアヤメ、ゼラニウム、アマリリスが飾られ、高級なシルクに包まれたキングベッドと大きな暖炉があり、見るからに豪華な客室であった。
アヴィレスがメーヴェをソファーに導くと、メーヴェは小さな声で礼を言ってソファーに腰掛け、深く溜め息をついた。アヴィレスは彼の向かい側のソファーに深く腰掛けた。扉の傍で控えていた騎士がワインを注ぎ、2人を挟むテーブルに置いた。
「……それでメーヴェ大司教、なぜ私は…」
アヴィレスは用意されたワインを一口含む。南のベリオン産のものなのか、一口だけで上等なものだと分かった。
2人とも腰を据え落ち着いたところで、アヴィレスは本題に入ろうとして声を掛けると、メーヴェは唇の前で人差し指を立てた。それを見てアヴィレスは思わず口を噤んだが、なぜ沈黙しなければいけないのか分からなかった。
メーヴェはぱちんと指を鳴らして扉の傍に控える騎士に「外してくれ」と言った。騎士は鎧をかしゃりと鳴らしながら言われた通りに部屋から出ていき、豪華な客室に2人は取り残された。
メーヴェの眉間にある皺が一層深くなっていた。元々愛嬌がある人であったが、年をとって毛髪は白くなり、年相応の厳格な雰囲気が漂っていた。
「……どこに敵が潜んでいるのか分かりませんので」
「敵?先程の騎士が敵なのですか?」
「いえ、分かりません」
状況が把握できずに戸惑うアヴィレスを、メーヴェは深い茶色の目で見つめた。